田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

最終回「さすらいの塾講師」第一部完 麻屋与志夫

2010-12-15 05:55:54 | Weblog
21

そして純が――瀕死。
純は集中治療室にいる。
翔子が清潔すぎる白衣で付き添っている。
泣いている。
声はでない。
だせない。ほかの患者もいる。
本来なら、付き添うことだって許されないはずだ。

さいわいというか。藤麻(とうま)病院の前で戦っていた。
純はタスカルノダロウカ。
茨木童子をミイマが倒した瞬時、妖空間が消えた。
駆けつけた百子の父の部下が純のながした血の跡を洗っている。
血は早くも路面にしみこんでしまった。なかなかきれいにはならない。
倒したVの死体や部位は再生を図られないように焼却炉におくられた。
ヤッラを焼く火はどんな色の煙を上げるのだろう。百子は思っていた。

超法規的な処置を異能部隊はとれる。警察はこなかった。

彼らの作業はカメラでとらえている。
群衆はロケくらいにしか思っていない。
「ワタシの彼いないシ」
と騒ぎたした女の子もいた。だがそれもすぐにおさまった。
原宿通りは元の静かさに、と言うか――喧騒にもどった。

「あとは……百子、おれたちに任せろ。クノイチ48は解散しろ。ボランテアで戦うにはあまりに犠牲が多すぎる」
「暴走族に命令するようなこと言わないで。わたしは翔子が戦っているのをみて参加したの。わたしの忍者としての血が騒いだのよ」

街にはジングベルやサイレントナイトの音楽が流れている。
ひとびとはひとまず平和にクリスマスを迎えようとしている。

……わたしと純。
デートしたことあるのかしら。
遊園地にいったことはない。
映画もいっしょにみたこともない。
やっとふたりだけで街にでても、すぐVとの争いにまきこまれてしまう。
やだよ。純、死なないで。
純に死なれたら、死なれたら、わたしどうすればいいの。
……わたしと純。
好きだよ。
愛している。
そう――もっともっと言っておけばよかった。
死なないで純。
涙がとまらない。
涙がとまらない。
……お兄ちゃん。
純、お兄ちゃん。
サヨナラじゃないよね。
もどっときて。
わたしの呼びかけに応えて帰ってきてくれたんだから。
こんどもアチラにいかないで。
死なないで。
これらもずっと、ずっと翔子といっしょにいて。
もうどこにもいかないと誓って。
死なないで。

ミイマは呆然と廊下の長椅子に座っていた。
長い歴史を生きてきた。若者が血をながして死んですくのをみた。
でも。
翔子と純。
あのまま。
純の意識がもどらなかったら。
酷すぎる。




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