田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

赤い口紅は再臨の印/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-12-11 13:31:18 | Weblog
18

「ミイマはやく目覚めて。心拍も血圧もすべて正常なのよ。GGと遊んでいるのでしょう。玲加にはわかるよ」
病室の窓の外ではすっかり雨はやんでいた。

表参道ヒルズなどのイカス、クリスマスの飾りつけ。
イルミネーションを見ようと繰り出した人の波。
そのざわめきが、伝わってくる。彼氏と腕を組んで胸を弾ませている。
コマーシャルの幻影にまどわされて華やいで今この時を過ごしている彼女たち。

いいなぁ、わたしちたちもそうしたい。
でも、わたしたちにはむりだ。

平凡な恋人たちのようにたのしく街を歩くことはできない。
わたしたちは目に触れてはいけない。
わたしたちの戦いは人目に触れていけないのだ。
だからこそ、ミイマが結婚して子供を三人も育てた。
奇跡のようなできごとだった。わたしたちの歴史にのこることだった。
わたしたちに希望の灯をともした。人との共存。
あのままずっと、GGの故郷で生きていければよかったのにね。
結局は、東京に呼び戻されて、不幸な結果になった。
わたしたちもザンネンだったよ。
だからこそ「ミイマ、はやく元気になって」人の世に不幸をもたらすVと戦いましょう。
人の世に不幸や混乱をもたらすVと戦いましょう。
人の世を、わがVの世に転覆させる。そこそこバカげたことを考えているVと戦いましょう。
もう……こうなったら全面戦争しかないと神代寺の始祖も、ここの院長先生と話していた。

「ミイマ。夢からさめて。わたしたちには強力なミイマのリーダーシップが必要なの……」

窓の外、はるか上空で稲妻が光ったようだ。少し遅れてかすかな雷鳴。
玲加がミイマのためにシャネルの表参道ブティックで買ってきたルージュココ。
魅惑的な赤。ミイマの漆黒の髪によく似合う。
「ミイマ。これはオクリビトの死化粧じゃないからね。卯の花に兼房見ゆる白髪かな、だ、からね。戦いの前の化粧だからね」
兼房が白髪を黒く染めて戦ったという故事を思い出すところがいかにも歴女。
さすがに玲加。

部屋の電気が暗くなった。明滅をくりかえしている。
そして。
キタ。
きた。
来た。
あまり歓迎したくない鬼の腕が玲加の頭上から突き下ろされた。

「羅生門の鬼ね?」
これまた故事をにのっとったセリフだ。
歴女の面目躍如。

「よく知っているな娘。さすが不死の一族」
声だけが天井から聞こえてくる。
「それをいうなら、わたしにもいって。不死の一族。そのとおりよ」
「ミイマ!!」
「タダイマ。玲加。心配かけたわね。あなたの思念はわたしにとどいていたからね。ありがとう」
「なに、イチヤついている。おまえらL(Lesbian)か」
「ちがう。MVよ。マインドバンパイア」
片腕にともなってまた腕が。両腕、頭、いま流行りの三点頭立の姿勢で鬼がニヤニヤわらっている。
鬼が笑うとよけい不気味だ。
「弟を消滅させたミイマとはおまえか。どこかであったな」
「あんたらあの奈良から平安京にかけて都を荒らした鬼の三兄弟」
「美魔なのか。あの玉藻の護衛隊長の美魔なのか? それにしてはわかすぎる」
「ほめていただいて恐縮」
ミイマの化粧したばかりの美しい唇から皮肉がとびだす。

鬼は弟を消された憎悪に目をらんらんと輝かせている。
肌はうろこ状で青黒い。
あまりに定番通りの姿だ。
「これならどうだ」
今風の草食系の若者。肉食の鬼の変身だ。
「これならデートしてくれるか」

わらっている。
目だけは弟の復讐心に燃えて深紅に血走っている。
どばっと腕をふるって襲ってきた。
再生したばかりのミイマをかばつて玲加がバラの鞭で応戦する。
ミイマが鬼切丸を枕元からとりだす。
「あなたもこのかたなの餌食になるのね。茨木童子さん」
ミイマ目前の鬼の名を思い出した。
「手ごわいわよ。玲加」

廊下でも争いあう騒ぎ。
翔子と純が寝ずの張り番をしていたのに。
この騒ぎに部屋にかけつけないのを玲加は不審に思っていた。
こいつは一人で来たわけではないのだ。
そとにもVがいる。
そしてクリスマス商戦にわく原宿通りがしんと静まった。
クノイチガールズも戦いの渦ににまきこまれた!!
妖空間に原宿が閉じ込められた。




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