田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

青山に降るミイマの涙雨/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-12-10 07:49:12 | Weblog
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「ミイマ。口きかないで」
翔子の携帯から、大森のモニタールームにいる玲加の声がする。
モニターでミイマの負傷を見ての指図だ。
玲加の声をきいた。苦痛に耐えて話していた。ミイマが沈黙する。
そうだ。いまは体力を温存しなければ。
これくらいの傷でも体力を消耗すると危険だ。
だいいち、気力がなくなる。生きようとする意欲がなくなる。
GGに会いたいと思っている。
どう危険なのかは経験がないからわらなない。
パイプは左の肩甲骨の下のほうに突き立っている。
内臓に破損はないはずだ。大量の血が流れている。
クノイチガールズが忍刀に仕込まれたヤスリでパイプを切っている。

青山は雨になった。
トワイライト。
斜陽が黒雲に陰り遠くで冬の雷がなっている。
降る雨を嫌った。ボスVをミイマに倒された。
Vの群れは迫りくる宵闇の中に紛れていく。
流れる水に弱い。雨が強くなった。
救急車が到着した。
「原宿の藤麻病院におねがいします。知り合いだから」
翔子が救急隊員に不安を隠しきれない声で頼んでいる。
そんなに心配することはないのに。
純も乗り込んでくる。
「わたしも、あと麻衣たのんだわね」
百子の声だ。
「はい。リーダー」
麻衣の声をあとに救急車はスタートした。
5分とかかるまい。

……ミイマはGGと出会ったころのことをおもっていた。
GGの思念をキャッチするまで……あのときも長いこと沈黙していた。
MV(マインドパアンパイア)であるわたしは人の思念をよく吸いとる。
悪いこころの思念だと消化不良を起こす。
悲しくなる。ときには嘔吐する。
わたしをどう感じているか、直ぐにわかってしまう。
ながいこと眠っていたこころに、透明なすんだこころが触れてきた。
悲しんでいた。あきらめようとしていた。
悲しんでいた。父の病を。母の病を。
あきらめようとしていた。作家になることを。
わたしに助けられるかもしれない。
悲しみをやわらげてあげられるかもしれない。
わたしは長い眠りから浮かび上がった。
……向こう岸から橋をわたって若者が来る。
わたしはこちら側から橋を渡り始めた。
ふたりは、橋の中央で眼と眼があった。
この人でいい。この若者と現世で暮らしてもいい。

「傷よりも、こころが衰退しているのが心配なの」
玲加が話している。
衰退だなんて難しい言葉使っている。
この歴史に明るい、歴史好きの歴女はほんとうは何歳なのか。
……わたしきいたことがない。
……手術台に乗せられている。
「先生、わたしたち特異体質……」
「みなまで言うな。神代寺とは古い付き合いだ。それを承知で来たのだろうが」
「よろしくおねがいします」
玲加が大人びている。玲加ちゃん、幾つなの? 

あのときも若者はわたしにそうきいた。
「幾つなの?」
「どうして?」
「未成年を誘惑したなんて、おやじに笑われそうだ」
オセジでないことはわかっていた。
わたしが、余りあどけないので……彼がたのしそうにわらっている。
あどけないのは、あなたのほうでしょう、とはいわなかった。
いえば、わたしがひとのこころをよめることがわかってしまう。
……でもいっかは、告白しなければ。
あれからながいこと彼と過ごした。
わたしにとつてはほんの一瞬だけど……。
彼がGGとなるまで、たのしかった。バラに囲まれた日々。

「バラをもってきたからな」
バラ園から義父がかけつけてくれた。
「バラのベッドに寝ていれば、すぐによくなる」
 義父がまくらもとで玲加と話している。
「廊下は翔子と純が見張っている。そとは百子とクノイチ48のメンバーがいる」
「あいつら。復讐にくるのですか」
「来るとおもう。ミイマが倒したのは、おそらくかなりの大物だ」
「油断なするな。BV(ブラックバンパイア)も必死だからな。地下都市を二か所も潰された恨みもある」
 ……わたしはこのまま長い眠りについてもいい。GGに会いたい。彼と会ったころにもどりたい。



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