田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ミイマ、ルシファーの羽を斬る/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-12-02 05:59:50 | Weblog
11

「青山とおなじだ。天井が落ちるぞ」
百々隊長が叫ぶ。

リアルな空のようだった。
のどかだった。
雲などながれていた。
さすがにVのアングラ都市だ。
太陽はでていなかった。
模造太陽など天空にかかってはいなかった。
どこからともなく、投射された碧空があった。
天国のように、神の国のように澄んだ空だった。
その空に亀裂が走り天井が落ちてくる。

「撤退だ!! 撤退するんだ」

勝則が街の深部からもどってきた。
クノイチ48とサポーターのメンバーがつぎつぎと集結する。
百子がメンバーのなかを走り回っている。
メンバーが足りない。かなりの仲間が欠けている。
点呼をとている時間はない。
いますぐにも、空が落ちてくる。
青山の地下都市での戦いで百子は、その凄まじさを体験している。
早く逃げないと、ヤバイ。

「どうしたのよ。みんな、なんとかイッテ。員数がたりないよ。たりないよ」
麻衣がうなだれている。
うなだれた姿勢のまま首をよこにふった。しくしくと泣きだした。
戦いに敗れた仲間がいる。戦いの場で討ち死にした仲間がいる。
隣で戦っていた仲間が「さようなら」という別れの言葉をのこして倒れていった。
その事実をだれよりもよく知っている彼女だった。
百子の周りを固めていたのはクノイチ最強のメンバーだった。
リーダーを守って戦っていたメンバーからは犠牲者はでなかった。
はじめて知る犠牲者のおおさに百子は呆然とする。

「探しにいく」
百子が街にもどろうとする。
「だめぇ。押しつぶされる」
瓦礫の影からメンバーがよろけてだ。仲間を背負っている。
「ルイ!!」
百子が走り寄る。
「ルイもクミもよくもどってきた、ほかのメンバーは……」

ルイが首を横にふっている。
「どうしてよ。みんな、みんなもっと強かったはずじゃない」
 
大森の指令室。
留守を守る玲加がモニターで戦いの場を監視している。
大型画面で純がGGを背負うのをみていた。
戦いの過酷さ。
ヒドスギル。カナシスギル。
みんなの悲しみが感じられた。
燃え上がり、天井が崩れる街。

巨大な堕天使、ルシファーの忌まわしい姿が映っている。
みんなが敵陣から退く道。退路にルシファーが潜んでいる。
突入した大扉のあったあたりだ。
だれも気付いていない。不意を突かれる。あぶない。そう思った。翔子をよびだす。
「翔子。ミイマとかわって」

GGを背負って退却している純を追い越す。
「どうしたのミイマ」
「戦いはまだおわっていない」
いた。
巨大なルシファーの黒い羽根。
ミイマは背後に忍んだ。
虚空に舞い上がる。
鬼切丸がひらめく。
黒い羽根を切り落とす。

「おう、痛い」
まったく痛みなど感じていない声。
「痛いよ。いたいよ、美魔。どうだ、最愛の男に死なれた悲しみをたのしんでいるか」
「たのしむ。からかわないで」
「噛んでおけばよかったものを。……バカだな美魔。美魔どうだ、いまからでもワシと組まんか」
「あなたにダマサレルノはコリゴリよ。どうせ、神の国にまた攻め込もうなんてこと言いだすのでしょう」
「わかってるじゃないか。神の座に向かって戦いを挑もうではないか。悪をもって人間を苦しめようではないか。ひとの苦しみは、神の嘆き。悪をもって、この世を混乱させようぞ」
「まだ、ソンナ戯言をいってるの」
美魔は容赦なくもう片方のはねに切りつけた。

両方の羽を失ったルシファーはみるまに縮んだ。

「ああこのほうがすっきりする」

高く清い空から真っ逆さまに落ちるように縮む。

そしてあの蛇となって側溝に逃げ込んだ。

あまりに簡単だ。

あまりにあっけない。

また善からぬことを企んでいるのだ。

ミイマは側溝に消えていく蛇をみながら不安におののいた。





今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
 お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
 皆さんの応援でがんばっています。

にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へにほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする