音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Röntgenの平均律2巻13番の見事な解釈&笑い話“平均律 3巻があった”■

2014-03-08 23:25:54 | ■私のアナリーゼ講座■

■Röntgenの平均律2巻13番の見事な解釈&笑い話“平均律 3巻があった”■
                                                 2014.3.8   中村洋子

 

 

★前回ブログの続きです。

平均律 第 2巻 「 第 13番  Prelude 」 の、付点や三連符のリズムは、

 Bach の  「 Clavier Übung クラヴィーア ユーブンク 」

第 2巻に収録されています 「 Overture nach Französischer Art

フランス風序曲 」 や、

Clavier Übung  第 3巻 1曲目の

「 Praeludium pro Organo Pleno 」 と、おおいに、

関連性があります。


Clavier Übung  第 3巻 1曲目と、最後の 27曲目の 2曲を、

Ferruccio Busoni フェルッチョ・ブゾーニ(1866 -1924)が、

1曲の 「 Prelude & Fuga 」 として、ピアノ用に編曲しています。

それを、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、

1933年に、録音しております。

       ・「Fischerの芸術第18集」 EMI  SGR-7118

この CDには、 Bach が編曲した 「 マルチェロのオーボエ協奏曲 」 から、

Adagio アダージョも、収録されています。


★さらに嬉しいことに、平均律 第 1巻 5番 ニ長調も、

録音されています。

この Fuga も、フランス風序曲の性格をもつ、付点リズムが、

多用されています。


この CDは、お薦めですが、添付されている解説は、問題です。

 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991) の CDなどで、

お馴染の、 “ テクニックに欠陥があったが、それを補って余りある

精神の深さ、崇高な美しさ ” などという、お決まりの陳腐極まりない、

常套句が、ここにも、ペーストされています。

“ テクニックに欠陥があった ” とは、天に唾するものでしょう。

 

 


★それはさておき、本当に、驚きましたのは、

先ほどの、ブゾーニが Clavier Übung  第 3巻 から

1曲の 「 Prelude & Fuga 」 として、ピアノ用に編曲した、

「 前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV552  」 の曲目解説に、

1739年に出版された 「 平均律クラヴィーア 第 3巻 」 に、

含まれるもので、

その冒頭の前奏曲と、巻末のフーガをブゾーニが編曲した・・・≫ と、

ありました。


「 平均律クラヴィーア 第 3巻 」  と、あります。

一瞬、 「 第 3巻 の草稿があったのでしょうか!!!」 と、

嬉しさから、頭がクラクラ、眩暈する思いでした。

しかし、すぐに分かりました。

この解説者は、「 Clavier Übung クラヴィーアユーブンク 」  第 3巻 を、

≪ 平均律 3巻 ≫  と、思い込んでいるのでした。


これは、 「 ケアレスミス 」 として、片付けられるような、

単純な問題ではなく、

Bachや 平均律、 Clavier Übung について、

ひいては、クラシック音楽についての、最低限の知識がない、

という結論になります


旧約聖書、新約聖書のあとに、新々約聖書があった、

というような、恐るべきお話ですが、

これが、日本の CDの解説のレベルです。

CDをお買い求めになっても、

ゆめゆめ、日本語解説をお読みにならないように。

できれば、輸入盤の CDを購入され、

辞書を引きながらでも、解説を読みましょう。


★この恐るべき笑い話は、結局、いま日本を騒がせている

佐村河内事件と、同根でしょう。

基本的な勉強不足のうえ、真贋を見分ける眼と能力が、

いまの日本で、徹底的に、欠如しているのです。

見分ける能力が全く無いマスコミが、 「 贋 」 を、

“ 本物 ”、“ 天才 ” と、日夜、繰り返し繰り返し宣伝して、

刷り込みます。

それも、ほとんどは商業的意図をもった故意でしょう。

「 障害 」 を売り物にする芸術は、芸術ではないのです。


★巨大なメディア媒体を駆使し、組織的になされる、

こうした宣伝プロパガンダに対し、よほど自覚して、

勉強されている方以外は、知らず知らずのうちに、

刷り込まれていくでしょう。

文化が衰退、凋落していきます。

本当の芸術、美を生み出すためには、

私たちは、知性と理性、感性とを絶えず研ぎ澄まし、

自分を磨き、「 本物 」 を日夜、

勉強する以外ありません。

 

 


★この 13番 Prelude は、 2声で書かれています。

主に下声に、付点を伴ったフランス風のリズムが多く、

心の軽やかさ、踊り出したくなるような軽やかさを、

身体で表現するリズム、といえるでしょう。


★13番 Prelude の 1小節目下声の開始音は、

fis ( 嬰へ音 ) で、 さらに、 gis  ( 嬰ト音 )、  ais  ( 嬰イ音 ) と、

続きます。


Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)版では、

その 「 fis 」 に、 「 4 」 の Fingering が付けられています。

そして、4小節目に目を移しますと、

その 3拍目上声が、 fis1 ais1  gis1  fis1   ( ファ ラ ソ ファ )

となっており、

その  ais1 に、 また、「 4 」 の Fingering が付けられています。


1小節目の  fis  gis   ais の、

逆行形  ais1  gis1  fis1   であることを、

「 4 」 によって、示しているということです。

 

 


★ピアニストは、 この唐突な 「 4 」 を見て、

何故ここに 「 4 」 があるのだろうか?

と、考えます。

そして、これは、 “弾き易くするための Fingering ではない”、

ということに、気付きます。

その次に、じっくり、 「 4 」 の意味を考えるでしょう。


★その結果、 “  「 4 」 が motif モティーフの開始音である ”

と、やっと気付くことでしょう。

1小節目 と 4小節目の関連性が、分かるのです。

同様に、 5、 6小節目についても、

示唆に富む Fingering が記されています。


これが、 Bach の対位法のほんの一端なのです。

Röntgen は、 Fingering でそれを指し示しているのです。

それゆえ、素晴らしい版なのです。

 

 

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 ■ 日  時 :  2014年 3月 11日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

 ■ 会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

 ■ 予約   :      Tel.03-3409-1958

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
    CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

        「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

     「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

       スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。


 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

  全国の主要CDショップや amazon でも、ご注文できます。

★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/  

「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中

 

 


※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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