音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ カザルスの Bach演奏がこの上ないのは、彼が平均律を毎日勉強したから■

2014-03-06 23:27:09 | ■私のアナリーゼ講座■

■ カザルスの Bach演奏がこの上ないのは、彼が平均律を毎日勉強したから■
~ 平均律 第 2巻 13番アナリーゼ講座のご案内 ~
                           2014.3.6    中村洋子






3月 11日(火) 、KAWAI表参道・コンサートサロン「パウゼ」で、

「 平均律 第 2巻 13番 Fis-Dur  Prelude & Fuga 」

のアナリーゼ講座を、開催いたします。

そのための勉強をしておりますが、毎日毎日が発見の連続で、

楽しくて、仕方ありません。


★Bach の自筆譜を、勉強いたしますと、

この上なく
親切な先生に、丁寧に丁寧に、

直接、レッスンしていただいているような、

錯覚すら、覚えます。


平均律 2巻を勉強する方法は、まずは、

「 Bach の自筆譜 」 を徹底的に学びます。

そして、補助的に、

Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) 先生、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)先生

の教えを、乞います。

ところどころ、Bärenreiter ベーレンライター版

( 新 Bach 全集 ) も、
参照します。

Henle ヘンレ版は、独善的で、勝手な改竄も多く、

あまりお薦めしません。







★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、

平均律の校訂を、残せずに世を去ったのは、

大変に、残念です。

しかし、Frederic  Chopin ショパン (1810~1849) が、

平均律 第 1巻に書き込んだ Fingering と解釈が、肝心要の部分で、

Bartók 校訂版と、不思議に、いつも一致しているように、

Fischer版がもし、存在していたとしても、

Bartók、 Röntgen と、大きな相違はないと、思われます。


★以前書きましたが、

Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、

毎朝、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集から、

2曲を選び、それを弾くことから、

一日を、始めたそうです。


Casalsの  Bach 「 6 Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 演奏は、

全く、他のチェリストの追随を、許しません。

その理由は、実は、この毎朝の、

≪ 平均律の演奏と勉強 ≫ に依るものが大きいと、

私は、思います。


★どなたでもご存知の、世界的な素晴らしいチェリストたちによる、

Bach 無伴奏チェロ組曲の演奏を、数多く、聴きましたが、

「 あれだけ立派なマエストロたちが、どうして、

こんなに底の浅いBach なのか 」 と、

いつも、疑問に思っていました


★やっと、得心がいきました。

私が、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集を、

「 自筆譜 」 で勉強した結果、やっと、

Casalsの演奏が、なぜ素晴らしいのか、その理由が

明確に、分かったのです。


★基本的に、Celloは単旋律なのですが、

Bach の 「 無伴奏チェロ組曲 」 に、

縦横無尽に、張り巡らされている

Harmony 和声や、Counterpoint 対位法を、

完全に分析し、それを知悉して、血肉化して初めて、

「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像が、

現れてくるのです







★毎日、Celloの練習をしているだけでは、

「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像は、

把握できないでしょう。



チェリストに限らず、どんな楽器の奏者でも、勉強すべきは、

 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集です。

並外れたテクニックで、聴衆を圧倒するような、

名人チェリストたちの、惨めな Bachを聴くたびに、

痛感いたします。


★ということは、彼らが演奏する、

Robert Schumann  ロベルト・シューマン (1810~1856) の

「 Cello Concerto 」 、

Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) の、

「 Cello Sonata 」 も、本物かどうか、

ということになります。
 

★逆に、音楽を好きでたまらない方が、

こつこつと、平均律を勉強すれば、

≪ 真贋を見抜く目と耳を獲得できる ≫、ということになります。

これが、音楽の喜びそのものなのです。







★1月に、ある会合で、Casalsの 「 Song of the Birds 鳥の歌 」 を、

ピアノで演奏しましたが、

原曲は、「 for Cello and String Orchestra  」

弦楽合奏と独奏 Cello のための曲です。


曲の初め、ヴァイオリンの 2分音符の長いトレモロ、

これは鳥のさえずりを、象徴しているのですが、

それを、ピアノで弾いていて、どこかで聴いたことがある

と思っていました。


★今回、平均律 2巻 13番を勉強しておりまして、

やっと、分かりました。

13番 Prelude の 26、 27小節目に、頻繁に現れる 

「 cis2 2点嬰ハ音 」 の、長い trill トリルが、

 「 鳥の歌 」 のトリルと大変によく、似ているのです。


★Casalsによりますと、この曲は、カタロニアの古い 「 Carol 祝い歌 」、

その歌詞は、キリスト降誕をうたっています。

「 みどりご 」 を迎えるのは鷹、雀、ナイチンゲール、ミソサザイです。

鳥たちは、 「 みどりご 」 を、甘い香りで大地をよろこばせる

一輪の花にたとえて、歌います。


★Casalsは、トリルを標題音楽的に使っているのではなく、

この 13番 Prelude のトリルと同じように、

使っています。







13番 Prelude の 26、 27小節は、実は全 75小節の、

ちょうど 3分の 1のところに位置し、

そのレイアウトも、非常に作為的に、凝っています。


★この 「 cis2 」 のトリルは、 26小節目の 2拍目から、始まりますが、

Bach は、26小節目の 1拍目を、

わざわざ、 5段目の一番最後に記譜し、

6段目の冒頭に、2拍目を置いています。

つまり冒頭から  「 cis2 」 のトリルが、始まるよう、

記譜しているのです。


★さらに、26小節目 2拍目の真上、つまり、5段目の冒頭に

目を移しますと、ここも 同様に、21小節目の 2拍目から、

始まっています。

なんと、この2拍目の上声は、 「 cis2 」 なのです。


★この 「 cis 」 という音は、実は、

≪ 13番 Fis- Dur の属音 ≫ です。

大変に、重要な音なのです。


★今度は目を、13番 Prelude の冒頭に移しますと、

何と、その上声は、 「 cis2 」 から、

始まっているのです。


★この一連の 「 cis2 」 のレイアウトのみならず、

Bach の自筆譜から、分かってくる曲の凄さ、楽しさに、

毎日、付き合っていますと、

喜びが、心から溢れ、春を待つ鳥のように、

歌いだしたくなるのです。






★さらに、 26、 27小節目の trill は、

13番 fuga の subject の、冒頭の trill に、

変容していくと思います。


13番 Fuga の冒頭トリルを、どう弾くべきかについても、

Bach 先生の自筆譜を、読み込みますと、

なんなく、回答が得られます。


★しかし、この Prelude & Fugaは、

愉悦に満ちているだけでは、ありません。

同時に、深い悲しみもたたえ、その悲しみの中に、

昇華した一種の明るさも、感じられます。


★次の 「14番 Prelude & Fuga fis-Moll 」 は、

平均律 2巻の白眉と言う説もありますが、

この曲は、嘆きに満ちた曲ではなく、実に暖かく、

明るい曲であることが、13番をよく勉強いたしますと、

分かってきます。


★講座でご説明しますが、平均律は、

24曲の別々の曲を、曲集として集めたのではなく、

≪ 巨大な 1曲の 24楽章 ≫ 、とみるべきなのです。

とりわけ、≪ 同じ主音をもつ、長調と短調の結び付き ≫ は強く、

14番を弾くためには、 13番を徹底的に勉強しなければ、

無理である、ということになります。

 


 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

 Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

  全国の主要CDショップや amazon で、ご注文できます。









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