音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■バッハの分散和音を、どのように解釈し、演奏すべきか ■

2010-10-06 14:56:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■バッハの分散和音を、どのように解釈し、演奏すべきか ■
              2010・10・6 中村洋子
  


★10月 8日のカワイ・平均律アナリーゼ講座にむけて、勉強中です。

今回は、平均律1巻 8番

変ホ短調・前奏曲、嬰ニ短調・フーガ )です。

この 8番が、バッハの 「 ゴルトベルク変奏曲 」 や、

マタイ受難曲 」 と、どのような関係にあるか、

また、前奏曲とフーガが、

なぜ、異名同音調の「 変ホ短調 」と、「 嬰ニ短調 」であるか、

詳しく、ご説明する予定です。

  
★8番の前奏曲とフーガを、どうして

「 異名同音調 」 に、しなければならなかったか、

その理由は、平均律クラヴィーア曲集を、

≪ 大きな変奏曲 ≫ と、とらえますと、

一目瞭然に、分かります。


★また、ゴルトベルク変奏曲と 8番との関係で、

重要な要素、となるのが、

≪ 分散和音( アルぺッジオ )≫ です。


★≪ 分散和音 ≫ については、インヴェンション講座で、

「 シンフォニア 5番 」 を、勉強しました際に、

ご説明しましたことを、まず、復習してみます。





★シンフォニア 5番 変ホ長調 ( 3声 ) について、

大ピアニストの、エドウィン・フィッシャーは、

この上 2声を、フルートとヴァイオリンの

Duett のように、出来る限り美しくフレーズで、

美しく歌うべきである 」と、指示しています。


★この言葉に、インスピレーションを受け、

私のインヴェンション講座 5回目では、

ヴァイオリニストをお招きし、弓もバロックボウを使い、

ソプラノ部分を 「 ヴァイオリン 」 で、

内声とバスを、私の 「 ピアノ 」 で、

演奏してみました。


★豪華に、チェンバロとピアノとの、

弾き比べも、いたしました。

ここで、 「 大発見 」 をしました。


★34小節目のソプラノの C、B、 35小節目の As、

36小節目の G、 37小節目の Fが、主要な旋律ラインですが、

「 C、B、As、G、F ( ド シ♭ ラ♭ ソ ファ ) 」と、

進行した場合、最終小節の 38小節目は、どうしても、

≪ Es ミ♭ ≫ が、欲しくなります。

ミ♭ があれば、 ド シ ラ ソ ファ ミ と、

美しい、6度の順次下行進行が、できるのです。


★最終小節・38小節目は、バスが  Es (ミ♭) 、

内声も Es (ミ♭) ソプラノが、G (ソ) の、

付点2分音符の和音です。


★この和音に、バッハは、アルぺッジオを付けてはいませんが、

ヴァイオリンとピアノで、演奏することにより、

欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ が、内声であるにもかかわらず、

はっきりと、聴き取れました。

ピアノで担当している 2つの声部のうち、 上の声部 ( ソプラノ )が、

まさに、欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ であったからです。




★そこで、私たちが次に考えましたのは以下のことです。

最終楽章である38小節目、付点2分音符の和音を、

分散和音とする、さらに、ヴァイオリンが担当していた、

G ソ に、前打音 ( langer Vorschlag ) として、

As ラ♭ を付け、

ソプラノを担当するヴァイオリンは、

ピアノの Es ミ♭ を、聴いてから、穏やかに、

ゆっくりと As G ラ♭ ソを、演奏することでした。


★これは、大変にいい効果を生み出しました。

38小節目の最終和音が、ぶっきらぼうに、

ただ1回だけ、奏されるのではなく、

余韻を残して、美しい 6度の順次進行を聴かせながら、

終わることが、できるのです。


★この方法は、ピアノだけで弾く場合でも、

もちろん、使うことができます。

是非、お試しください。


★この経験から分かったことは、

バッハの和音は、必要であれば、

バッハが分散和音の記号を、付けていなくても、

アルぺッジオにすることも、可能である、ということです。


★その必要性とは、

その曲をアナリーゼし、バッハが意図したモティーフや、

フレーズが、分散和音により、より分かりやすく、

出現するかどうか、です。


★これは、分散和音を、

高い音から、低い音に向けて弾くか、

あるいは、低い音から高い音に向けて弾くか、

にも、応用できます。


ヴィルヘルム・ケンプによる、極め付きの名演 C D

「 ゴルトベルク変奏曲 」 の アリア 2小節目で、

バッハが記したソプラノの前打音 2つを、弾いていない理由も、

まさに、ここにあるのです。


★ケンプが、≪インヴェンション、シンフォニア、

平均律、ゴルトベルク変奏曲≫  を、大きく俯瞰し、

≪ 一つの巨大な変奏曲 = バッハそのもの ≫  と、

とらえて、演奏していることを、私は実感しました。


★バッハの  ≪ 装飾音、分散和音 ≫  の、演奏方法は、

どれだけ深く、バッハをアナリーゼできているか、

それに、依ります。





                               ( 藪蘭、紫蘇、洋種山牛蒡  )

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