■バッハの分散和音を、どのように解釈し、演奏すべきか ■
2010・10・6 中村洋子
★10月 8日のカワイ・平均律アナリーゼ講座にむけて、勉強中です。
今回は、平均律1巻 8番
( 変ホ短調・前奏曲、嬰ニ短調・フーガ )です。
この 8番が、バッハの 「 ゴルトベルク変奏曲 」 や、
「 マタイ受難曲 」 と、どのような関係にあるか、
また、前奏曲とフーガが、
なぜ、異名同音調の「 変ホ短調 」と、「 嬰ニ短調 」であるか、
詳しく、ご説明する予定です。
★8番の前奏曲とフーガを、どうして
「 異名同音調 」 に、しなければならなかったか、
その理由は、平均律クラヴィーア曲集を、
≪ 大きな変奏曲 ≫ と、とらえますと、
一目瞭然に、分かります。
★また、ゴルトベルク変奏曲と 8番との関係で、
重要な要素、となるのが、
≪ 分散和音( アルぺッジオ )≫ です。
★≪ 分散和音 ≫ については、インヴェンション講座で、
「 シンフォニア 5番 」 を、勉強しました際に、
ご説明しましたことを、まず、復習してみます。
★シンフォニア 5番 変ホ長調 ( 3声 ) について、
大ピアニストの、エドウィン・フィッシャーは、
「 この上 2声を、フルートとヴァイオリンの
Duett のように、出来る限り美しくフレーズで、
美しく歌うべきである 」と、指示しています。
★この言葉に、インスピレーションを受け、
私のインヴェンション講座 5回目では、
ヴァイオリニストをお招きし、弓もバロックボウを使い、
ソプラノ部分を 「 ヴァイオリン 」 で、
内声とバスを、私の 「 ピアノ 」 で、
演奏してみました。
★豪華に、チェンバロとピアノとの、
弾き比べも、いたしました。
ここで、 「 大発見 」 をしました。
★34小節目のソプラノの C、B、 35小節目の As、
36小節目の G、 37小節目の Fが、主要な旋律ラインですが、
「 C、B、As、G、F ( ド シ♭ ラ♭ ソ ファ ) 」と、
進行した場合、最終小節の 38小節目は、どうしても、
≪ Es ミ♭ ≫ が、欲しくなります。
ミ♭ があれば、 ド シ ラ ソ ファ ミ と、
美しい、6度の順次下行進行が、できるのです。
★最終小節・38小節目は、バスが Es (ミ♭) 、
内声も Es (ミ♭) ソプラノが、G (ソ) の、
付点2分音符の和音です。
★この和音に、バッハは、アルぺッジオを付けてはいませんが、
ヴァイオリンとピアノで、演奏することにより、
欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ が、内声であるにもかかわらず、
はっきりと、聴き取れました。
ピアノで担当している 2つの声部のうち、 上の声部 ( ソプラノ )が、
まさに、欲しかった ≪ Es ミ♭ ≫ であったからです。
★そこで、私たちが次に考えましたのは以下のことです。
最終楽章である38小節目、付点2分音符の和音を、
分散和音とする、さらに、ヴァイオリンが担当していた、
G ソ に、前打音 ( langer Vorschlag ) として、
As ラ♭ を付け、
ソプラノを担当するヴァイオリンは、
ピアノの Es ミ♭ を、聴いてから、穏やかに、
ゆっくりと As G ラ♭ ソを、演奏することでした。
★これは、大変にいい効果を生み出しました。
38小節目の最終和音が、ぶっきらぼうに、
ただ1回だけ、奏されるのではなく、
余韻を残して、美しい 6度の順次進行を聴かせながら、
終わることが、できるのです。
★この方法は、ピアノだけで弾く場合でも、
もちろん、使うことができます。
是非、お試しください。
★この経験から分かったことは、
バッハの和音は、必要であれば、
バッハが分散和音の記号を、付けていなくても、
アルぺッジオにすることも、可能である、ということです。
★その必要性とは、
その曲をアナリーゼし、バッハが意図したモティーフや、
フレーズが、分散和音により、より分かりやすく、
出現するかどうか、です。
★これは、分散和音を、
高い音から、低い音に向けて弾くか、
あるいは、低い音から高い音に向けて弾くか、
にも、応用できます。
★ヴィルヘルム・ケンプによる、極め付きの名演 C D
「 ゴルトベルク変奏曲 」 の アリア 2小節目で、
バッハが記したソプラノの前打音 2つを、弾いていない理由も、
まさに、ここにあるのです。
★ケンプが、≪インヴェンション、シンフォニア、
平均律、ゴルトベルク変奏曲≫ を、大きく俯瞰し、
≪ 一つの巨大な変奏曲 = バッハそのもの ≫ と、
とらえて、演奏していることを、私は実感しました。
★バッハの ≪ 装飾音、分散和音 ≫ の、演奏方法は、
どれだけ深く、バッハをアナリーゼできているか、
それに、依ります。
( 藪蘭、紫蘇、洋種山牛蒡 )
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