■ベーレンライター平均律第1巻楽譜に添付の「解説書」を出版しました■
~「クラシックの真実は大作曲家の自筆譜にあり」も第3刷を刊行~
~来年1月から、新しい「平均律第1巻アナリーゼ講座」を開催~
2017.11.11 中村洋子
★今月は、1日の「十三夜」に秋の月を愛で、7日ははや「立冬」、
11月も、もう半ばです。
銀杏の葉の黄金色と、ツワブキの花の黄とが、
天と地で呼応しています。
★私が解説を書きました
【ベーレンライター原典版
バッハ、平均律クラヴィーア曲集 第1巻
日本語による詳細な解説付き楽譜】 が、
このほど出版されました。
http://www.academia-music.com/
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/
★楽譜に添付されたこの「解説書」では、
まずは、Bachが自ら書き記した、わずか21行の【序文】を翻訳しました。
しかし、この「序文」は謎解きのような文章であるため、
そのまま訳しましても、Bachが言いたかったことを、
現代の私たちは、とうてい理解できないと思われます。
★この「序文」は、簡単に申しますと、
≪「平均律第1巻」がどのような曲集であるか≫、
を規定しているばかりか、
≪「調性」とは一体何であるのかを、Bachが定義している文章である≫、
と言うことができます。
★「解説書」では、どなたがお読みになっても、それを理解できるよう、
詳細に分析し、ご説明いたしました。
この試みは、これまで、あまり例がないと思います。
★これは、衒学や、
音楽学者の陥りがちな、重箱の隅をつつくような内容では
決して、ありません。
★この「序文」こそが、Bachを理解する出発点であり、
さらに、Bachのみならず、クラシック音楽の素晴らしい世界へと、
足を踏み入れることができる入口なのです。
★現在の日本で、“クラシック音楽” と言われる領域をみましても、
ケバケバしい、厚塗りの “クラシックもどき” が、
巷に、溢れています。
それらとBachの作品との距離は、月と地球ほどあるでしょう。
★序文の意味を理解し、Bachと“クラシックもどき”との距離を
実感されますと、
「Bachを演奏することが、ますます楽しくなり、さらに、
鑑賞する際の、正しい道標にもなる」ことでしょう。
これは、Bachに限らず、クラシック音楽の名曲すべてについても、
同じことが言えるでしょう。
★「序文」の解説から導き出される結論は、
≪平均律第1巻は、全24曲ではない≫ということです。
では何曲なのでしょうか?
★≪平均律第1巻は、「1曲」なのです≫。
皆さまは、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」を
「全30曲」、または「アリアと全30曲」とは、おっしゃらないでしょう。
「Goldberg-Variationen」は、「1曲」です。
★「ゴルトベルク変奏曲」という名前も、Bachがあずかり知らない、
後世のニックネームです。
正式には「Clavier- Übung クラヴィーア・ユーブング(練習曲集)」
四部作の最後の1巻です。
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000174751/
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000174750/
★第1、2、3には、それぞれ「1巻」、「2巻」、「3巻」と書かれていますが、
「ゴルトベルク変奏曲」については、Bachは何故か、
「第4巻」あるいは「最後の巻」とは記入していませんでした。
★engraver(彫版士)の彫り忘れを、完全には否定はできませんが、
四部作の最後という位置付けから、更に一歩飛躍して、
「集大成」として、あえて、「第4巻」としなかったのではないか、
とも思います。
★お話を戻しますと、
平均律第1巻の「序文」に記された1722年からほぼ20年弱後の、
1741~42年に出版された「ゴルトベルク変奏曲」を勉強しますと、
「平均律第1巻」、そして「ゴルトベルク変奏曲」とほぼ同時期に完成した
「平均律第2巻」をも、明確に理解することができます。
★私は、2016~17年の2年間にわたり、
全10回「ゴルトベルク変奏曲・アナリーゼ講座」を開催し、
「ゴルトベルク変奏曲」を綿密に勉強することが、できました。
★それにより、平均律第1巻に対する見方が、これまでとは、
がらっと変わりました。
それが、今回出版しました「解説書」に、結実したとも言えます。
★Bachは用意周到に、手抜き無く、
自分の生涯にわたる作曲の計画を練り、
たゆまぬ努力の上に、じっくり仕事を進めた人です。
★そのような視点で、Bachの作品群を勉強していきますと、
音楽学者による解説は滑稽なものが多いのです。
例えば、Bachの他の曲集について、
「この曲集は、書いた後、放置されていた作品を
寄せ集めて使っている」・・・など、可笑しさを通り越して、
憐みすら感じてしまいます。
これは、音楽学者の間で孫引きが繰り返された“定説”でも
あるのです。
★「大作曲家」が、どのように作曲を計画し、
作曲を積み重ねていくか、という工程を、
まるで分かっていないようです。
Bachは、その人の身の丈にあった「Bach像」しか、
示さないようです。
★私たちは、自分の「身の丈」を少しずつ、
Bachに近づけるよう、日々の努力が欠かせませんね。
Pablo Casals パブロ・カザルス(1876-1973) が、
毎朝、平均律を弾くことから一日を始めた、
この日課こそが、「身の丈」拡大の近道です。
★今回の「解説書」では、アルフレート・デュルの
「前書き」も、翻訳しました。
この「前書き」で示されたデュルの見解については、
説明不足の点も、かなり見受けられますため、
私は、それらの点について、詳細な「注釈」を施しました。
★例えば、デュルが「5度圏」と、一言だけ記述して済ませている
ところについても、この「5度圏」とはどういう意味なのか、
どなたでも理解できるよう、図も用いて説明し、
Bachが作曲していた当時、どんな意味があったのか、
についても、踏み込んで書きました。
★また、17~20ページ(注17)では、
4番 cis-Moll 嬰ハ短調フーガを、Bach自筆譜から勉強しますと、
どんな発見があるのか、それが演奏や鑑賞に、どう役立つか、
具体的に譜例を用いて、詳しく解説しました。
★Bachが同型反復(ゼクエンツ)を、どう演奏して欲しいと、
望んでいたかも、これにより、分かってくることでしょう。
★この同型反復(ゼクエンツ)の扱いにつきましては、
21ページ(注18):7番 Es-Dur 変ホ長調の項でも、
更に発展させてご説明しました。
★これらを理解されますと、
Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜 」 facsimile 読み方が、
知らず知らずのうちに、身につくと思います。
秋の夜長に是非、じっくりお読みください。
★10月末には、私が昨年出版いたしました著書
≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり
~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、
曲の構造、演奏法まで分かる~≫
(DU BOOKS刊)が、
「第3刷」の刊行となりました。
根強いご支持で、ジワジワと継続的にお買い求めいただいているようで、
とても嬉しいことです。
★来年1月からは、新たに「平均律第1巻アナリーゼ講座」も、
開催されます。
http://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html
★「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」から、逆照射された
「平均律第1巻」は、今度はどんな輝きを見せてくれるのでしょうか。
この講座を一番楽しみにしているのは、実は、私なのです。
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