■エドウィン・フィッシャーのCD集と、斎藤明子さんリサイタル■
010・8・29 中村洋子
★昨日、8月28日は、ドイツ・ドルトムントで、
私の 「 チェロ 三重奏曲 」 が、演奏され、また、東京では、
私の 「 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
ギタリストの 斎藤明子さんにより、演奏されました。
★斎藤さんは、バッハの 「 無伴奏チェロ組曲 1番 」 と 「 同 2番 」、
それに、私の 「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 を、演奏されました。
★バッハの 「 無伴奏チェロ組曲 」 は、これまで、
通常のギターで弾く場合、 「 6弦で、低音域が足りない 」 という、
楽器上の制約から、バッハの原調を移調し、
音も加えられたり、編曲されたうえで、演奏されてきました。
★バッハは、 「 無伴奏チェロ組曲全 6曲 」 全体を、
大きな構想の下に、作曲しています。
これは、 「 平均律クラヴィーア曲集 」 と全く、同じです。
平均律クラヴィーア曲集を、移調して弾くピアニストが,
いないのと同様に、
「 無伴奏チェロ組曲 」 を、移調して弾くことは、
不愉快なこと、ともいえます。
★斎藤さんの楽器は、 6弦ギターより、
低音部が増弦されている 「 10弦ギター 」。
この 10弦ギターを用いることで、
バッハの原調のままでの、演奏が可能です。
★リサイタルでは、アンナ・マグダレーナ・バッハの手書譜
( バッハ自身の手書譜は、現存していない ) により、
一つの音の増減もなく、原調でバッハの世界に、
ひたり切ることが、できました。
★素晴らしい、ポリフォニック解釈で、
彼女は、この名曲を弾き切り、聴く人たちに、
感銘を、音楽の楽しみを、心から与えてくださいました。
★私の 「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 の演奏は、
ベッチャー先生のチェロとは、別の世界、
新しい魅力が、引き出されていました。
★チェロは、弦を弓で擦 ( こす )ることにより、
ある音を弾き始めてからも、音色を変えたり、
その音を、crescendo したり、音量を変化させるなど、
さまざまな創意を、表現できます。
★しかし、ギターは、ピアノと同様、
弾いた後、音色などを変化させることができません。
100%、「 減衰 」 しか、ないのです。
チェロに可能な 「 レガート 」 は、
ギター、ピアノで は不可能です。
チェロは、ある音を弾き始めますと、次の音が始まるまで、
演奏し続けることができる、つまり、意思の下に置けますが、
ギター、ピアノはできません。
★ギター、ピアノにとって、 「 レガート 」 をどう作るか、
それが、演奏家の力量とも言うことができます。
日本のピアニストに、よくみられますのは、
例えば、音階的パッセージで、
音の粒を揃えることに、汲々として、
音階から、どのようにモティーフを引き出し、
曲を構築していくか、それが往々にして、欠けていることです。
★斎藤さんは、「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 を、
ご自分の解釈で、チェロのベッチャー先生とは、
違うアプローチで、弾き切りました。
チェロでは、大変に困難な、音階的な早いパッセージも、
ギターでは、それほど難しくはありません。
★その特性を生かし、チェロ演奏を聴き慣れた耳に、
ある種、新鮮な驚きを感じさせつつ、
魅力に満ちた新しい世界を、提示しました。
私が、作曲しながらイメージしました、
日本の秋の風景が、彷彿としてきました。
同じ曲を演奏しても、チェロとギターとでは、
別物という、印象さえ与えられました。
★斎藤さんは、日本が誇ることのできる、
本当の 「 音楽家である 」 ギタリスト です。
この 「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 の CD 録音を、
現在、計画中です。
★嬉しいことは、重なるものです。
帰途、立ち寄りました 「 HMV 」 で、
素晴らしい CD集を、見つけました。
★エトヴィン・フィッシャー ( Edwin Fischer、 1886~ 1960 )
演奏の CDが、12枚も収録されている CD集です。
価格は 四千八百円、偉大なマエストロの集大成ともいえる
演奏集が、かくも安価で販売されていいものであろうかと、
正直申しまして、複雑な気持ちでした。
★すぐ近くには、音楽とは別の要素を “ 売り ” にして、
大々的に宣伝されている、まだ若い幼い日本人ピアニストの、
派手な大きな写真、そのたった 1枚の最新 CD盤が、
偉大なマエストロの 12枚分にも、匹敵しそうな、
三千円 という価格。
この矛盾。
★フィッシャーの大半の演奏は、個々のCD盤として、
既に、所有していますが、
やはり、嬉しさから、躊躇せずに、購入しました。
★この CDボックスには、当然のことながら、
バッハ 「 平均律クラヴィーア曲集 」 の 1、 2巻 も収録され、
その他、
バッハ: Keyboard Concerto、Brandenburg Concerto、
モーツァルト: Piano Concrto No.17、20、22、24、25、
ピアノソナタ K330 、K331、Rondo K382,
Fantasias K396、K475
ベートーヴェン: Piano Concrto No.3、4、5、
ピアノソナタ Pathetique、Appassionata、
シューベルト: Impromptus D899、D935、Moments musicaux D780
ブラームス : Piano Concrto No.2 など、
溜息の出る、陳腐な表現ですが、 「 珠玉の名演 」 ばかりです。
★この輸入版は、
※■ EMI CLASSICS EDWIN FISCHER 50999 6 29499 2 7 MONO ADD
★EMIの、このCDボックスでは、
アリシア・デ・ラローチャ ( Alicia de Larrocha, 1923~ 2009 )
の名演奏集も、ありました。
★輸入版の最大の利点は、安価であるということよりも、
日本人の “音楽学者 ” や、 “評論家もどき”、
“音楽ライター ” 、 “作曲家” による、愚かな解説や、
誤解に満ちた、したり顔の、受け売り、孫引き解釈を、
読まされずに済む、という点です。
★英、独、仏語で、真に必要な解説、情報が、
ブックレットに、書かれています。
辞書を片手に、それを読めばいいのです。
( 斎藤明子さんと10弦ギター、朝顔、八月の満月 )
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