■ バッハ・インヴェンション 4番と ドイツ菓子 “ aus LIEBE (アウスリーベ) ” ■
2010・8.25 中村洋子
★昨日8月24日は、ピアノの先生方のお勉強会、
≪「音楽講座 自筆譜から読み解くバッハ」
インヴェンション 4番 シンフォニア 4番 ≫に、
講師として招かれ、鎌倉に参りました。
★会場は、緑豊かな鎌倉山でした。
★バッハの自筆譜を、深く読み解いていけばいくほど、
≪ エドウィン・フィッシャーの校訂版 ≫が、
どれほど、優れた内容であるか、
それが、じわじわと、分かってきます。
★フィッシャーの校訂版楽譜は、ほとんど 「 原典版 」 と言えるほど、
バッハの楽譜に、変更は加えていません。
★校訂者 「 フィッシャー 」 が、記入した
≪ 指使い ≫ と ≪ 脚注 ≫ を、読み込むことで、
彼が、バッハをどのように解釈し、 演奏したか、
実によく、分かってきます。
★具体的に、一例。
インヴェンション 4番 の 38小節目 については、
「 脚注 」 で、 ≪ f p ≫ としか、記していません。
★これは、≪ 38小節目1拍目までを 「 フォルテ 」 で演奏し、
それ以降を、急に 「 ピアノ 」 で演奏しなさい ≫という、指示です。
★実は、この ≪ f p ≫ という指示だけで、
「 38小節目 1拍目までが、この曲の第 2部分であり、
それ以降から、第 3部分が始まる、つまり、この ≪ f p ≫ が、
その境目である 」 ということを、
フィッシャーが伝えている・・・、
感度のいいピアニストなら、そういうことに、
すぐ、気付きます。
★さらに、42小節目の上声 「 A、 F、 E、 F 」のところに ≪ f ≫、
43小節目の上声 8分音符 「 G 、E 」に、 ≪ マルカート ≫ と、
フィッシャーが、脚注しています。
★これにより、フィッシャーが、この 2小節を、
インヴェンション 4番の、頂点とみていることが、分かります。
★さらに、注意深く見ますと、 44小節目 下声 1拍目 「 F 」 を、
「 4 」 の指使いと、わざわざ指定し、
45小節目 下声 「 E 」 もまた、 「 4 」 の指使いにするよう、
記しています。
★この 44、 45小節目の 「 4 」 は、決して、
弾き易い指使いでは、ありません。
5本の指のなかで、最も不器用な 「 4 」 の指で弾くように、
あえて、指定したのは、
その音を、何気なく、弾き流すのではなく、
≪ 大変に 重要な音であり、意識して弾くように ≫ という、
フィッシャーのメッセージが、込められているのです。
★44小節目 「 F 」 と 45小節目の 「 E 」 が、
なぜ、重要であるか、
それは、もう一度、 42、 43小節に、立ち戻って考えれば、
鮮やかに、分かります。
★フィッシャーが 「 f 」 と記した
42小節目上声 2拍目 「 F、E 」 の、
拡大形が、44、 45小節目の 「 F 」 と 「 E 」 なのです。
★さらに、 42小節目の上声 2拍目 「 F 」 、
43小節目 上声 2拍目 「 マルカート 」 の「 E 」 が、
44、 45の下声 「 F、E 」 と、
カノンの関係にありことも、分かってきます。
★「 校訂者フィッシャー 」 の、見事なアナリーゼと演奏法を、
ここから、読みとることができます。
( 朝顔の蕾 )
★もしかして、フィッシャーは、 44、 45小節目の
「 4 」 の指使いを、自分では、「 4 」ではなく、
他の指で、弾いていたかもしれません。
私が、皆さまにお勧めしたい練習法は、
この 2つの音を、 “ 不器用な ” 4の指で、心を込めて、
丁寧に、弾いてみることです。
★その後、自分にとって、弾き易い指で、
先ほどの弾き方をなぞって、弾くようにすることです。
★この方法は、私が講座で、絶えず、お勧めしています
「 暗譜の方法 」 と、同じ考え方です。
★このように、フィッシャーの楽譜は、
手とり足とり、弾き方を、
親切に、アドヴァイスしていません。
読みとる方に、相当の音楽的力量が求められますが、
バッハと同じように、限りなく、奥深いものです。
★残念ながら、フィッシャー校訂 「 二声のインヴェンション 」 は、
絶版となっています。
「 三声のシンフォニア 」 は、「 EDITION WILHELM HANSEN 」 から、
≪ 三声のインヴェンション ≫ として、まだ出版されています。
是非、これを手にとって、勉強してください。
★この指使いと、演奏との関連につきましては、
9月9日の 「 カワイ・平均律アナリーゼ講座 」 で、
詳しく、お話いたします。
★講座を終え、鬱蒼とした緑の鎌倉山から、今度は、
お隣の、太陽が燦々と明るい、藤沢・片瀬山へと回りました。
( テーゲベック )
★「 aus Liebe アウス リーベ 」 といいますと、
バッハ 「 マタイ受難曲 」 のなかの名曲、
「 アウス リーベ 」 ( 愛ゆえに )を、思い起こされるでしょう。
★今回は、バッハの 「 aus Liebe 」 ではなく、
飛び切り美味しい、ドイツ菓子のお店 「 aus LIEBE 」 のお話です。
★お店の名前は、この店でお菓子を焼いていらっしゃる
「 曽根 愛 ( めぐみ ) 」 さんの 「 愛 」 に、由来します。
★彼女のクッキーは、絶品。
「 日本で屈指の味 」 と、
賞味するたびに、いつも、感動しています。
★初めて、味わったときの感動は、
カルチャーショックに、近いものでした。
甘みは、少々物足りないほど控えめ。
しかし、噛むほどに、
小麦粉、バター、ナッツ、チョコレートなどの素材が、
バッハのフーガのように、最初は、力強くからみあい、
そして、次第に、やさしく、最後は、混然一体となっていきます。
高貴な味わいが漂い、いつまでも去りません。
ファーストフラッシュの紅茶と、一緒に召し上がりますと、
「ああ、なんて幸せ!!!」 という、気持ちになります。
★なにも特別なものは、入っていません。
誠意を込めて、最高の技術で、
手抜きせず、焼き上げますと、
素材の良さが、際立ってくるのでしょう。
( モカ・クヌスプリ )
★愛さんは、小学生のときから、
「 ドイツ菓子作りのマイスターになりたい 」 という、
夢をもち続け、高校卒業と同時に、ドイツに渡りました。
★ジグマリンゲン職業訓練学校を 「 首席 」 で卒業、その後、
ドイツ国立製菓学校 「 ボルフェンビュッテル 」 、
スイスの 「 リッチモンド 製菓学校 」で学び、
7年後に 「 ドイツ国家製菓マイスター資格 」 を、
ケルンで、取得されました。
★最近、日本のクラシック音楽家の経歴には、やたらと、
海外留学で「 1等賞卒業 」 や 「 満場一致で首席卒業 」 などと、
書かれています。
その記述を見ないほうが、珍しいほどです。
日本でいえば、単に、ある講座の単位が 「 優 」であった、
というだけのことを、「 首席 」 と書き、
演奏審査などで、三人いる審査員が 、
全員 「 優 」 を与えた場合を、
「 満場一致 」 と “ 誇大翻訳 ” して、表現しているようです。
滑稽です。
★このように、日本の音楽家の経歴には、
ハイパーインフレ気味に、 「 首席 」が、溢れていますが、
曽根さんの 「 首席 」 卒業は、違います。
一口味わうだけで、幸せをもたらす、
素晴らしいお菓子に、結実しています。
真に、価値ある「 首席 」です。
★曽根さんに、初めてお目に掛りましたが、
想像通り、誠実さを絵に描いたような、素敵な方でした。
★「 Megumi Sone 」 を、ドイツ人は、
きっと 「 ゾネさん 」 と、呼ぶでしょうね、
「 n 」 をもう一つ加えて 「 Sonne 」にすると、
「 太陽 」 ですね。
お名前に「 愛 」 と 「 太陽 」が、
あるなんて、素敵ですね、と申し上げますと、
曽根さん 「 太陽のSonne ゾンネ から n を一つ取った名前です 」 と、
ドイツで、自己紹介してました、と笑いながらおっしゃいました。
★「 昔通りの作り方を、忠実に守って作っている 」そうで、
「 ドイツでも、いまは、このような伝統的なお菓子屋さんは、
数少ない 」そうです。
★私が曽根さんと、おしゃべりしているときも、
お客さまが一人、お店にいらっしゃいました。
微笑みながら 「 娘が妊娠して、つわりになっていたとき、
めぐみさんのお菓子だけは、食べられたんですよ」と、
おっしゃっていました。
※ アウスリーベ:〒251-0033 神奈川県藤沢市片瀬山4-11-2
TEL/FAX: 0466-61-3596
http://www.ausliebe.net/
( お白粉花 )
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