音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■第3回「平均律1巻3番Cis-Durアナリーゼ講座」、Cis-Durは前代未聞の調■

2018-03-28 22:30:17 | ■私のアナリーゼ講座■

■第3回「平均律1巻アナリーゼ講座」のご案内■
  ~第1巻3番「Cis-Durプレリュードとフーガ」~
~この調性は前代未聞のCis-Dur 、これがその後の西洋音楽を規定する~
  ~「バベットの晩餐会」の主演女優・Audranオードランが死去~
 
              2018.3.28   中村洋子

 

 

★フランスの名優 Stéphane Audran ステファーヌ・オードランが、

亡くなりました、85歳でした。

日本では映画「Babettes gæstebud,  Babette's Feast

バベットの晩餐会」(1987年)の、主演女優として、知られています。


★ちょうど昨年、この映画のデジタルリマスター版を、

劇場上映で見たところでした。

Audran を懐かしく思い、ちくま文庫から出版されている原作の

「バベットの晩餐会」Isak Dienesen イサク・ディーネセン著を、

みました。


★この映画が公開された1989年の日本は、バブルの頂点。

決して美食を讃える映画ではないのですが、

上映直後から、商魂たくましい日本のデパートなどが、

映画に出てきた超高級ワインを売り出していたのには、あきれました。


★この映画のテーマは何だったのでしょうか。

パリコミューンで、労働者階級の夫と息子を殺された女性の物語です。

彼女「Babette バベット」は、当時のパリで随一と名高かったレストランの

シェフを務めていた、という設定です。


★バベット自身も、パリでバリケードに赤旗を立てて戦ったコミューンの

支持者です。

コミューンが崩壊した後、バベットはデンマークの寒村の、

二人の老いた姉妹のもとに、命からがら辿り着き、

家政婦として長年働きます。

デンマークに来てから14年後、フランスの宝くじが当たり、

賞金1万フランを、獲得します。

 

 


★彼女は、この大金をもってパリに戻るか、あるいは、

老後の資金として大切にするか?

どちらも選びませんでした。

老姉妹の父だった牧師の、生誕100周年を祝う晩餐会に、

そのすべてを、使い果たします。

晩餐会に出席するのは、寒村の村人ともう一人の計12人。

もう一人は唯一、その料理の価値が分かる将軍です。

この将軍は老姉妹のうちの姉に、かつて恋をした人物。

偶然から、この晩餐会に出席することになりました。

 

 


★バベットがパリに戻らない理由。

コミューンで敵として戦った王侯貴族が皆、亡くなってしまったから。

彼らは、たくさんの人たちを殺した忌まわしい残酷な人たちでした。」

と、バベットは語ります。


★「あの方たちは、私(Babette)の、そう私のものだったのです。

彼らは、信じられないほど莫大な費用をかけて育てられ、

躾けられたていたのです。

私が、どれだけ優れた芸術家であるかを知るためにです。

私が最高の料理を出した時、あの方々をこのうえなく幸せに

することができたのです。」

これがバベットの答えです。


★バベットの心を代弁して老姉妹の妹が言います。

「次善のものに甘んじて満足せよなどと言われるのは、

芸術家にとっては恐ろしいこと、耐えられぬこと。」

「芸術家が次善のもので喝采を受けるのは、恐ろしいこと。」


★バベット「私は優れた芸術家なのです。

優れた芸術家が、貧しくなることなどないのです。」


★バベットが創る最高の芸術を、理解できる人たちは、

もうパリに存在しなくなった。

それは、自分の夫や息子を殺した敵でもあった。

理解できる人がいなくなったところには、戻らない・・・

 

私たちは、最善のBachを学ぶために、

バベットの心意気を保ちたいと思います。

次回のアナリーゼ講座です。

 

 


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■第3回中村洋子「平均律1巻アナリーゼ講座」のご案内

   ~第1巻3番「Cis-Durプレリュードとフーガ」~ 
https://www.academia-music.com/new/2018-03-27-105139.html

  ・3番 Prelude & Fugaの調性は、前代未聞の「Cis-Dur」

  ・この調性「Cis-Dur」が、その後300年の西洋音楽を規定する


■日 時:2018年5月26日(土) 14:00~18:00 
■会 場:エッサム本社ビル 4階 こだまホール
        東京都千代田区神田須田町1-26-3
                    ℡:03-3258-8787
    (JR 神田駅北口 徒歩3分 ※エッサム1、2号館ではありません)

■第3回のお申込みは、3月30日10:10より受付いたします。
    お申込み・お問い合わせは、アカデミアミュージック企画部
      :03-3813-6757、kikaku@academia-music.com

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★平均律クラヴィーア曲集第1巻の24曲のプレリュードとフーガは、

前後の曲が緊密につながり合っているだけではありません。

番号が遠く離れた曲と曲とが、思いがけない共通項を数多く含有し、

見えないベクトルで極度の緊張を保ち、支え合っているのです。

これは決して、偶然ではありません。

これこそが、Bach(1685-1750)がわずか21行の「序文」で高らかに

宣言した「平均律第1巻」の正体です。

精緻で複雑な宇宙空間に比せられるような、巨大な多面体の立体構造物です。

ドイツ・Bärenreiterベーレンライター社の楽譜「平均律第1巻」に添付しました

「解説書(Bachが自ら書いた序文の詳細な分析と解説、前書きの翻訳と注釈)」

を、私は2017年に書きましたが、ここで、平均律第1巻の正体を明らかに

しております。それを是非、お読み下さい。

 

 


第3番の調性「Cis-Dur」は、Bachが作曲した当時も、

そして現代ですら、大変に珍しい調性です。

バッハは24全ての調性で作曲すると決めたため、機械的に

「Cis-Dur」の曲を作曲したのでしょうか?

そうではありません。

異名同音の調である「Des-Dur」でもよかったのではないか?

という疑問が当然起きてきます。

しかし、Bachはあえてそうしなかったのです。

わざわざ「Cis-Dur」で書いた時点で、Bachの眼差しは、

遥か後世の、ベートーヴェン(1770-1827)や

ショパン(1810-1849)の作品が出現することを、必然的に

視座に入れていたともいえます。

 

 


●プレリュード

 「平均律第1巻」1、2、3番は、各曲が個性的で一見、共通項を

もたないようにも感じられる程です。

しかし、3番プレリュードとフーガは、2番フーガを換骨奪胎した曲

ともいえます。そして、2番フーガは、1番フーガからの由来です。

花の蜜を吸おうと、空中をホバリングしている蜂雀(ハミングバード)の

羽音のような、このプレリュードにどんな秘密が

隠されているのでしょうか・・・。


●フーガ

明るく爽やか、初夏の風のようなフーガです。

主題冒頭音のみが、応答で変応されます。

このため、主題の冒頭音と続く2番目の音は、2度音程を形成していますが、

応答の冒頭音と、続く2番目の音で形成される音程は3度となります。

その相違を、Bachは巧みに性格の描写として、

活き活きと羽ばたかせています。

 

 

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■講師: 作曲家  中村 洋子
                           東京芸術大学作曲科卒。

・2008~15年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
 「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
  自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、
  10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
                ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

https://www.academia-music.com/shopdetail/000000058666/

  「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」、
  「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)
     チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)」をドイツ・
     ドルトムントのハウケハック社  Musikverlag Hauke Hack  Dortmund
       から出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello
       無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher
       ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表
              (disk UNION : GDRL 1001/1002)
                      「レコード芸術特選盤」

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した
  ≪クラシックの真実は大作曲家の自筆譜 にあり!≫
    ~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、
            演奏法までも 分かる~ (DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行した
 バッハ「ゴルトベルク変奏曲」Urtext原典版の「序文」の日本語訳と
 「訳者による注釈」を担当。

    CD『 Mars 夏日星』(ギター二重奏&ギター独奏)を発表。
     (アカデミアミュージック、銀座・山野楽器2Fで販売中)

・2017年「チェロ四重奏のための10のファンタジー(第2巻、6~10番)」を、
  ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund
から出版。

https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177497/

 

・2017年、ベーレンライター出版(Bärenreiter-Verlag)刊行のバッハ
   平均律クラヴィーア曲集第1巻」Urtext原典版の
     ≪「前書き」日本語訳≫
     ≪「前書き」に対する訳者(中村洋子)注釈≫
     ≪バッハ自身が書いた「序文」の日本語訳≫
     ≪バッハ「序文」について訳者(中村洋子)による、
                 詳細な解釈と解説≫を担当。

 https://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/

 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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