音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ ルービンシュタインの名演をDVDで見る ■■

2007-12-24 17:29:51 | ★旧・感動のCD、論文,演奏会など
2007/3/15(木)

★ピアノのルービンシュタイン、バイオリンのハイフェッツ、チェロのピアティゴルスキーの演奏を録画した

EMIクラッシック・アーカイブシリーズを観ました。

「100万ドルトリオの名演奏」と日本語で宣伝してありますが、3人でのトリオの演奏は一曲もなく、

収録曲は、ベートーベンのピアノ協奏曲第4番、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲、

ウォルトンのチェロ協奏曲、あとは小品です。


★ピアノ協奏曲は、アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982)が75歳の1967年、

ロンドン・ロイヤルフェスティバルホールでの録音です。

“年齢を全く感じさせない”という陳腐な表現だけでなく、

“人間として最も美しい歳のとりかた”が伝わる演奏でした。

彼が、自分で鍛え抜いた「手」の美しさに惚れ惚れとしました。

指の付け根の関節は、筋肉で大きく盛り上がっていますが、決して、

ゴツゴツした感じではなく、優雅ですらあります。

私がいままで拝見しました手で、一番美しいと思ったのは、ショパンの手ですが、

これは、ピアニストというより、創作する作曲家の手、というイメージが強いです。

ピアニストの手では、断然、ルービンシュタインです。


★以前、尊敬する歌舞伎の中村富十郎さんの腕の筋肉を、直接、触らせていただいたことがあります。

硬さは全くなく、柔らかく弾力がありました。

日本舞踊などで、瞬間的に強い力を出すために鍛え上げられた筋肉は、

普段は柔らかいものだと、分かりました。

おそらく、ルービンシュタインもそうだと思います。

また、顔の表情も興味深いものがありました。

舞台袖から、オーケストラの団員の間を縫って、ピアノに辿り着くまでの、

緊張して引き締まった顔。

背筋をすっくと伸ばし、鍵盤に向かう表情、

弾き終わった後の、大きな仕事を成し終えた安堵感。

まさに千両役者です。

残念ながら、ルービンシュタインの実演は見たことがなく、

想像するだけでしたが、映像で体験でき、とても幸せです。


★文楽の名人・故吉田玉男さんも、人形の動きとは全く関係なく、

いつも背筋をシャンと伸ばし、

どんな場面でも、顔色ひとつ変えていらっしゃいませんでした。

彼の遣う大星由良之助の人間的な奥行きの深さ、と一脈通じるかもしれません。

晩年、玉男さんの「忠臣蔵」全幕を、通しで観ることができたのはとても幸運でした。


★ベートーベンの4番は、コンチェルトのなかでは、私も最も好きな曲ですが、

「アポロ的」などとレッテルを貼られ、なんだか肩の凝る縮こまった演奏があるようです。

ルービンシュタインは、こだわることなく、おおらかに大きく羽ばたいております。

皆様もこの演奏をお聴きになりますと、

“音楽とはなんと楽しいものでしょう”とお感じになることと思います。


★このDVDには、ボーナスとして、ショパン・ポロネーズ変イ長調「英雄」が入っております。

これは、1年後の1968年に、同じホールでの録画です。

これだけでも、このDVDを購入する価値があります。

あまりに有名で、通俗的なイメージが定着しておりますが、

演奏によって、かくも変わるものか、と思いました。

軍馬のどよめきがヒタヒタと押し寄せ、眼前に迫るようです。

兵隊たちの高揚した感情まで伝わってきます。

ショパンの醍醐味です。

ドラクロアの絵画でも見ているかのようです。

ルービンシュタインには、ブラームスのピアノ五重奏の歴史的な超名演がありますが、

室内楽の抽象的な世界も、ショパンの活き活きとした絵画的世界も、難なく描き出せます。

本当にオールマイティなピアニストです。



▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲▽△▼▲

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■ 「くるみ割り人形」のピア... | トップ | ■■ 世紀の名チェリスト ピ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

★旧・感動のCD、論文,演奏会など」カテゴリの最新記事