カルタグラ
このゲームでいの一番に述べたいインプレッション。 それは・・・
「なんちゅーヘタレ主人公じゃ!」
恐らくは史上最狂にして最凶の主人公だろう。 どのシナリオでも最低一度はぶん殴られて気を失う。 「!」とかいうセリフの後で、簡単に後ろを取られてノビてしまうのた。 それも複数回、毎度毎度性懲りもなく同じように後ろを取られる。
これでよく警視庁の刑事がつとまったものだと、感心するばかりだ。 本人は「警察のあり方に疑問を抱いて」自主的に退職したと言っているが、これは間違いなく「あの役立たず」とか「子供の使いもできねえ」などと後ろ指を指されたあげく、クビになったものと思われる。
いかに部下思いで何でも知っている(当然なことに)警部でも、この部下のヘタレぶりには呆れ果てて愛想を尽かしたに違いない。
腕力がないだけではなく推理力も皆無(なのにラストでは突然名探偵にへんしーんする。 この不可解・・・)で、手もなく敵の罠にはまってしまう。 それだけではない。 重要な手がかりがあるのにろくにその捜査もせず、可愛い女の子と遊びほうけるというズッコケぶり。 なのになんであんなに可愛い娘に惚れられまくるのだ。 私など・・・(以下略) 世の中間違っとるぞ。
冒頭から悪口ばかりかいたが(すみませんイノセントグレイさん)、ゲーム自体は中々面白い。
なにより昭和25.6年頃と想定される時代設定がよい。 朝鮮戦争による特需が始まる直前の昭和25.6年は、日本の最後の戦後時代とも言うべき時代であり、闇市・浮浪児・暗黒街などというものが実存した最後の時代でもある。 この後日本は特需による好景気に沸き立ち、復興を遂げてゆく。
その最後の暗黒時代にふさわしい、黒い煉獄がヒロイン達を呑み込んで行く。 トゥルーエンドのラストはデウスエクスマキナ的で、それまでヘタレの限りを尽くしていた主人公が、いきなり名探偵に変身し、快刀乱麻事件を解決する。(笑)
しかし、ラストのその又ラストはかなり疑問に思える。 昭和25.6年頃の、複数(それも多数の)殺人犯の判決の傾向は不明だが、現在の判決の状況から見れば、死刑の可能性は相当に高い。 それが「将来の希望」がどうだとか、「何時までも待つ」というのは、あまり現実的ではないように思える。
ところで、「魂の煉獄」とは誰にとってのことだろうか?
無惨に殺され解体されてゆくヒロイン達か、それとも闇に飲まれた魂を持つ犯人たちか?
或いはこの作品で最も特異な性格を持つ、主人公の妹か?
でなければ、真犯人か?
はたまたトゥルーエンドで明らかにされる、このゲームの真の(しかし隠れた)主人公とも言うべき人物か?
私には、どうも主人公にとっての「魂の煉獄」というように受け取れる。 前述の主人公のヘタレぶりは、ギャグとも思えず、シリアスならば異常である。 ヒロイン達を救うことが出来ず、無残な死に至らしめる主人公の悲哀。 それが彼の「魂の煉獄」なのである。
(注 この文は「アンサイクロペディア」の記事ではありません。)