ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

チェルノブイリ原発事故から31年

2017-04-26 | 放射能関連情報
 チェルノブイリ原発事故発生から今日で31年になりました。

 今日はセシウム137の半減期と風評について書きたいと思います。

 昨年の今頃は、
「ついにセシウム137の半減期が来るから、きっと内部被爆の数値も下がるに違いない。」
と期待していたのですが、予想は外れました。
 
チロ基金の活動「ビタペクト&『放射能と栄養』無料配布運動の測定結果を見ていても分かるように、ベラルーシの子どもたちの内部被爆量には変化はありません。
 おそらく生体濃縮が続いていて、事故のとき放出したセシウム137全体から言えば、数は半分になったとはいえ、食品の汚染は続いており、逆に人間の体内に蓄積している・・・ということでしょう。蓄積が絶え間なく続いているので、結局ベラルーシ人は内部被爆し続けており、それが測定すると数値として表れている、ということです。
 放出したセシウムが多すぎて、それが30年後半分になったとしても、食物連鎖の中で回っったり、また自然界からその循環の中に入ってくるセシウムの数が急に減少する、ということはない、ということです。
 結局、ずっと放射能と付き合う生活を送っていかなくてはいけません。
 次の半減期は2046年。劇的な内部被爆の減少はおきているでしょうか?
 一人一人の体重1キロ当たりの内部被爆量として考えると、それは起こらないだろうと思います。
 
 次に風評のことですが、小麦粉について書きたいと思います。
 偶然フェイスブックで「町の一介のパン屋のオヤジ」を自称している廣瀬満雄さんが、「パンと放射能」という記事を2014年に投稿しています。
 この第三回にこのような記述が見られます。
「つまり、東欧のベクレルまみれの小麦粉が、中国の製パン工場で冷凍生地として使用されドンドン日本にも入ってきている、という事です。大手ヤ〇ザキ製パンを始め、いろいろな企業に入っているようです。世界のパン「ヤ〇ザキ」とは、よく言ったものです。ベラルーシ産の小麦粉を使用しているかもしれないのですから。今、関西地方で有名な阪〇ベーカリーの100円パン、良い例かと思います。」

 これをどうして取り上げたかと言うと、ベラルーシは小麦の生産量が少なく、逆に外国から輸入せざるを得ない国だからです。
 とても日本に(あるいは中国に)小麦を輸出する余力がありません。
 
 おそらくこの文章を書いた廣瀬満雄さんの頭の中のイメージでは、「東欧」産の小麦粉が中国経由で日本に入ってきている。→ 東欧の中にあるベラルーシ。→ ベラルーシはチェルノブイリ原発事故の影響で汚染されている。→ そこで作られた小麦粉はベクレルまみれ。
 ・・・となっていて、このような文章になったのでしょう。

 しかし、ベラルーシは小麦輸出国ではなく、逆に小麦輸入大国です。
 どこから輸入しているのかと言うと、カザフスタンです。カザフスタン産の小麦を陸路で大量にベラルーシへ輸入。ベラルーシ国内の製粉所で粉にしています。(製粉されたものを輸入するより、この方が安いから。)

 ベラルーシのスーパーに行くと、いかにもベラルーシ産に見える小麦粉がたくさん売られていますが、それは小麦から小麦粉にした場所はベラルーシだからであって、実際にはベラルーシ人はカザフスタンの小麦から作ったパンを食べています。

 ベラルーシはヨーロッパの国で、パンは主食でしょ? 中央アジアの国から小麦を輸入しているなんて、おかしい! と思う日本人もいるでしょうが、ベラルーシ人の主食は「じゃがいも」そして「黒パン」です。
 黒パンはライ麦から作られます。ベラルーシは寒冷気候なので、寒さに強いライ麦はたくさん生えますが、小麦はほとんど生えないのです。だから暖かいカザフスタンから輸入しなくてはいけないです。
 
 ベラルーシの伝統的な料理には黒パンが必ず添えられていましたが、白パン(小麦粉を練って作ったパン)は食べられていませんでした。
 今では、白パンもケーキもたくさん売られています。
 一方で、ヨーロッパ人なんだから、パンは何でも好きだろう、とベラルーシ人におかずをいっしょに、白パンを出すと、拒否されます。
 黒パンは主食。白パンはおやつのような扱いだからです。
 日本人に「日本人だから米が主食ですよね。」と、味噌汁に焼き魚、漬物、そしてそこへ、「おはぎ」を外国人に出され、
「さあ、このアジのひらきといっしょに、おはぎをほおばってください。」
と言われたら、どんな気持ちになりますか? 
 このように、ベラルーシ人に黒パンを出さないといけないところへ白パンを出すと、断られます。
 もちろんおやつに白パンの菓子パンや、小麦粉から作るケーキなどはベラルーシ人は大好きで、いっぱい食べますけど、こういう食習慣が生まれたのは実は割合最近の話です。

 ベラルーシにとって、小麦粉は輸入品、現地では手に入らない貴重なもの、主食の材料ではなく嗜好品の材料に近い、ということが分かっていただけたでしょうか。
 このようにベラルーシから小麦粉が日本へ輸出されているとは考えにくく、また仮にそうであったとしても、それはベラルーシ産の小麦ではありません。

 東欧をまるごとひっくるめて、チェルノブイリ原発事故のせいで、汚染された地域、という廣瀬さんの(あくまでイメージですが、)考え方も正しくないと思います。

 廣瀬さんが「食品加工メーカーも自主的にベクレル検査をするべき」と提唱していることには賛同できるのですが。

 とにかく、ベラルーシ「産」で、ベクレルまみれ、つまり放射能汚染されている小麦粉から作られたパンが大量に日本人消費者の口に入っているとは、私にはとても思えません。

 「じゃあ、ベラルーシから日本に何が輸入されているのか?」という疑問を持つ人がいるかもしれないので、こちらのブログをご案内します。
「ベラルーシの貿易相手国 」  服部倫卓のロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪(ブログ版)より。
 2016年12月20日付のこの記事によると
「ベラルーシにとって最大の貿易相手国はロシアであり、以下ウクライナ、中国、英国、ドイツなどと続く。日本は、自動車の輸出などは行われているが、はっきり言ってベラルーシから買うものがないので、ベラルーシ貿易ランキングにおける順位は43位止まりであり、シェアも0.2%にすぎない。」
・・・だそうです。
 日本がベラルーシから買うものってないんですね・・・(^^;)

 私としてはこちらの「乳製品輸出大国としてのベラルーシ 」と言う記事のほうが気になりました。
 これによると、
「2015年にバターの輸出国としてベラルーシは世界3位を占めたという。1位がニュージーランドで43.9万t、2位がEU(1国ではないが)で17.4万t、3位がベラルーシで5.6万t、(中略)ベラルーシはこのほかにも、ホエイパウダー(乳清を粉状にしたもの)で世界3位、チーズ・カッテージチーズで5位、粉乳で5位の輸出国だった。」
 ・・・そうです。
 ちなみに日本は長年ベラルーシから粉乳を輸入しています。もっとも、放射能の検査は日本側はしているはずで、日本の基準値以下だったものだけが、輸入を認められているはずです。
 個人的にはホエイパウダーが気になりますね。ホエイにはセシウムのような水溶性の放射性核種が集まりやすいからです。
 それにしても。ベラルーシの乳製品がこんなに世界中で食べられているんですね。 
 ちなみにバターには原料だった牛乳に含まれていた放射能はほとんど残りません。
 
「いや、すっごい気になる。」
という日本人消費者の方は、一つ一つ原材料がどこからやってきたのか調べてから購入されることをお勧めします。
 とはいうものの、実際にはなかなか難しいですよね。

 でもまあ、20年以上ベラルーシに住み続けていて、ベラルーシ産のものを食べている私は今のところ健康ですので、ちょっとベラルーシ産の脱脂粉乳が入った日本製食品を日本人が食べたとしても、それが原因で発病する可能性は限りなく低いと思います。