電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

上野千鶴子『おひとりさまの老後』を読む

2020年08月20日 06時01分23秒 | -ノンフィクション
文春文庫で、上野千鶴子著『おひとりさまの老後』を読みました。帯のコピーが「結婚していようがいまいが、だれでも最後はひとり」「もう老後は怖くない! ひとりで安心して死ねる」にひかれて手にしたのですが、全体的にはなるほどと納得できる、説得力のあるものでした。

本書の構成は次のとおり。

第1章 ようこそ、シングルライフへ
第2章 どこで どう暮らすか
第3章 だれと どうつきあうか
第4章 おカネは どうするか
第5章 どんな介護を受けるか
第6章 どんなふうに「終わる」か

内容としては、もっぱら女性向けに「ひとりでも別に寂しくはないし困らない」「住み処があり、おカネがあり友人がいること」「介護される覚悟とコツ」「人は死んで記憶を残す」など、1948年生まれの著者が女性学、ジェンダー研究、介護研究のパイオニアとして培った経験が存分に活かされたものなのでしょう。

たしかに、家事能力を養い、住処とお金などの生活基盤の上で、友人との付き合いに丁寧に対処していれば、あとは介護を受ける覚悟とコツをわきまえて、一人暮らしは可能であり、そういう社会的制度、基盤もある程度できている、のかも。



では、本書でカバーしきれないものとは何か? それは多分、恵まれない境遇にある人には必ずしも当てはまらないのではなかろうか、と思える点です。例えば、住む家もお金もない場合はどうか、あるいは重い障碍をかかえた子を持つ親は、「親亡き後」を危惧しながら、責任のない「おひとりさま」の自由をどんなにかうらやみ夢見ることだろう。著者は、「それはアンタが選んだ結果でしょ」と言うのか、それとも? 

それらは、本書のカバーする範囲を超えています。でも、主として統計数値を扱う社会学的研究においても、思わず絶句してしまうような個々のケースに、著者が胸を打たれることは少なくなかったのではなかろうか。話題になった東大の入学式での祝辞(*1)は、広い意味では、たぶんそういうことも含めた、後進に対する激励だったのだろうなあ。

(*1):平成31年度東京大学学部入学式祝辞
(*2):上野千鶴子「私が東大祝辞で伝えたかったこと」〜東洋経済オンライン

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