中学ん時の達公のマサシが死んだ…と、マブ達のトモヤからメールが入っていた。
コロナ禍もあって、葬儀は家族葬にした…との事だったが、トモヤの彼女がマサシの妹のカレンだったので、その異様な死に様を聞いて、気持ち悪くなった…と、あった。
葬儀から数日後、オレは、トモヤとカレンに誘われて、三人で『サイゼリヤ』でランチをすることになった。
メールにあった「その異様な死に様」とやらの真相を、も少し詳しく訊こうと出かけた。
「おう。久しぶり」
「おす。元気してたか?」
「まあな…」
「このたびは、ご愁傷様だったな…」
「ありがとう…」
カレンは、やはり、いつもと違って、かなり凹んだ様子だった。
「こいつ、かなり参ってんだ」
「うん…。そりゃ、兄貴が急に死んだんだもんな…」
見ると、カレンは「兄」というのに反応したのか、ジワリと泪をためた。
「ごめんな。こんな時に、付き合わせて…」
カレンは、返事する代わりに黙って首を横に振った。
そしたら、そのはずみで、ポロリと泪がこぼれた。
「あんなぁ、ちょっと聞いてやってくれるか…」
「うん。何でも聞くよ」
「こいつの話、俺にもようわからんのよ…」
「ん・・・?」
どんな話なのか、それは、動揺してる本人からでなく、彼氏の口から語られた。
かいつまんで言うと、こんなふうである…
根が助平なマサは、何でも、アマゾンで、スマホに付ける格安の望遠レンズを買ったという。
その使い道が、「盗撮」というのだから…、呆れたもんで・・・。
れっきとした犯罪なのに…。
それで、彼は考えあぐねた末、サッカーの試合会場でやんべぇ…と、思いついたらしい。
自分も中学時代からサッカー選手だったので、サポーターの女の子でも撮ろうと思ったのだろう。
地元チームが試合の日。
彼はノコノコと喜び勇んで出かけたという。
そして、試合を撮るふりをしながら、ちょいちょいパンしては、スタジアムの向かい側に座る女性の膝元あたりを「出歯亀」よろしく覗き見していたようである。
これとて、「窃視」という立派な犯罪だ。
昨今の『ユーチューブ』などの動画サイトでも、スポーツ動画と称しながらも、ギリギリ合法の範囲で、女子選手を堂々と撮影しているのも少なくない。
誰でも、静止画か動画のシャッターを押しさえすれば、不特定多数の女性の肢体を咎められることなく、遠くから狙い撮りできる、という時代なのである。
かつて、TVコメンテーターとしてもならした某大学教授が、階段で鏡を用いて女性のスカート内を覗いてるところを現行犯で逮捕された事件があった。
その品行方正然とした見た目から、世間はアッと言ったが…。
かくばかり、オトコという生き物は、どうしようもない変態的な性(さが)があるのかもしれない。
でも、犯罪は犯罪である。
馬鹿マサも、この手合いで、目ぼしいミニスカ女性を望遠で物色していた。
幾人かの獲物を見つけては、シャッターを切りファイルに溜めこんでいった。
そして、アリバイ工作に、時々は、ピッチ内の選手を追いかける素振りをすることも忘れなかった。
試合が佳境に入り、贔屓のチームが得点に絡むプレーともなると、サポーターの眼は当然のことピッチに注がれる。
すると、人間、そんな時は隙ができるもので、ミニスカ女性たちも周囲の眼なぞを警戒するはずもなかった。
そこが「出歯亀」の狙い目だった。
マサが何人目かの女性にターゲットを絞り、オートフォーカスがジャスト・ピントになった時。
その膝元から上半身にレンズをパンさせて
(どれ、お顔を拝見…)
と、確認しようとした時だった。
気付くはずのない女が、こちらをギロリと睨んだ。
その眼は、すべてを見抜いてるようであり、そればかりか、その口元は同じ言葉を何度も発していた。
唇の動きは…
「しね・・・。シネ・・・。死ね…」
マサは、さぞかしビビッたんだろうが、すぐには眼を離せなかったようだ。
むしろ、眼が釘付けになっていると、次の瞬間、女はニンマリと笑みを浮かべながら、首をギリリと直角にねじり始めた。
マサは、ゾッとして、こわ張った指が無意識に動画のスイッチを押していた。
…噺は、それでオワリである。
マサは、翌朝、首の骨を折って、布団の中で死んでいた。
「死因」はハッキリしてるが、何故その首が九十度もねじれていたのか、司法解剖でも判らなかったという。
カレンは、兄の遺品の整理で、偶然、その動画を見てしまった。
彼女だけが、兄の死の真相を識ったのである。
それ以来、彼女は不眠症に陥り、わずかでもウトウトすると、あの女のねじれた顔が眼前に迫って来るという。
カレンは、ぽそりとひと言、
「わたしも、殺される・・・」
と言って泣いた。
オレとトモヤは、彼女が持参した遺品の動画を、どうしても見ることができなかった。
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