抗うつ剤であるパキシルが効いてくるには、個人差もあるが、だいたい四週から六週を要するものである。
その間、抑うつ症状は、抗うつ作用のある安定剤ソラナックスが役立ってくれる。
パキシルには、副作用として吐き気を伴うことがあるが、圭子は幸いにしてそれは免れた。
彼女の抑うつの病態は、BDI(ベック式抑うつ評価尺度)によれば、軽度から中等度にレイティングされた。
まだ、うつ特有の希死念慮(自殺願望)までは生じていなかった。
しかし、人間、不眠が続き、セロトニンの代謝不全が高じると、うつは重篤化し、この恐ろしい希死念慮に取り憑かれる。
それによって、自殺する人は年間、一万人以上はいるだろう。
うつ病が侮れないのは、希死念慮があるからなのである。
だが、いかなパキシルのような特効薬的なSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害剤)をもってしても、抑うつ症状は軽減・改善されても、圭子の受けたトラウマ(心的外傷)の類はサイコセラピー(心理療法)の援用がなくば、容易に払拭できるものではなかった。
いわば、薬物療法と心理療法は車の両輪といっていいだろう。
圭子は、血の涙を流しながら、事の顛末を手書きした。
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