あの日より
長き年経ち
今朝の太陽
おろがみ奉る
こころ静かに
瓢 水
12年前の今日。
忘れもしない
2時46分。
マグニチュード9という
未曽有の超巨大地震を体験した。
そして、
未曽有の超巨大津波は
沿岸の街々を飲み込み、
二万もの命が奪われた。
フクシマに於いては、
原発爆発という
これまた未曽有の大災害が起こり、
超巨大地震・超巨大津波との
『複合災害』となり、
その心身の疲弊による
「関連死」により、
さらに数千もの人が亡くなった。
心理カウンセラーとして、
市内18か所の避難所を巡って
PFA(心理的応急処置/
Psychological First Aid )
に出向いたのはいいが、
やがて、ガソリンは枯渇し、
自身も疲弊して、
バーナウト(燃え尽き状態)に陥り、
極度の鬱になってしまった。
5年ほど前までは、
3.11を前にすると、
「記念日反応」のような
プチ・フラッシュバックも起こり
体調が崩れたこともあった。
去年・一昨年と
震度5、震度6の
大余震が起こり、
今もって、油断できない事を
悟らせられてからは、
常々、軽い緊張状態を伴う
防災態勢にもある。
「1000年に一度」の
超巨大地殻変動は
100年余震が続く・・・
というので、
孫子も含めて
その心つもりを忘れてはなるまい。
快晴の今朝の青空を見て、
原発爆発した翌日に
ブログに載せた
狐狸庵センセイの言葉が
自ずと脳裏に浮かんだ。
人間が
こんなに哀しいのに
主よ
海があまりに
碧いのです
***
2011年の3月11日には、
そのお昼に、
フミのシーマを借りて、
馴染みのフレンチ・レストランに
赴いていた。
そして、
その帰路、
近所の文具店に寄っていたら、
突然にグラリと来て、
『3.11』の悲劇の序章が始まった。
慌てて帰宅すると、
家の中は足の踏み場もなく、
急いでつけたテレビには、
災害ヘリの空撮で、
黒々とした大津波が
今まさに逃げ惑う車を
呑み込もうとしていた。
その間にも、
巨大余震が大きな音を立てる。
あの日だけで、
震度5を数回ふくむ
200回以上の余震があったから、
まさに、生きた心地がしない、
というものであった。
***
偶然なのか、
無意識のなせるわざなのか、
二月の末に、あの日と同じ
フレンチ・レストランに
予約を入れていた。
そして、きのう、
そんな話をも
シェフとマダムと
帰り際に思い返して
してきたばかりである。
***
震災時には、
原発爆発での屋内退避勧告もあり、
一週間の断水で調理もできず、
有り合わせのもので
飢えを凌いだ。
避難所訪問で頂いた
冷えた「塩むすび」の味も
忘れがたいものである。
・・・それなのに、
贅沢なフレンチを
食べたいなんて・・・(笑)。
ここまで、無事に、
生き長らえてこれたことに
心から感謝し、
口福・心福の幸福を求めて・・・
なのかもしれない。
***
きのうは、
あらかじめシェフに
「ピジョン(鳩)」のスペシャリティを
アラカルトで・・・と、
依頼していた。
フランス・オーベルニュ産の逸品を
わざわざお取り寄せ頂き、
最高の調理をしてくだすった。
*
オードヴルは
『富士幻豚と軍鶏レバーのパテ』。
手でもって頂く
アミューズ的「前菜」である。
前日の昼に、
『パンの耳挙げちゃいました』で
軽い胃腸炎をおこして、
夜・朝と絶食して
胃腸薬を服用しての
「第一食」だったので、
オナカの調子をうかがうことになった。
まずまず、大丈夫!
違和感もなく、
美味しく感じられて、
胃の腑に収まってくれた(笑)。
そして、いよいよ、
メイン・イヴェントの
『ピジョン・エトフェ』
(窒息鳩)
の御到来を待つ。
「鳩」と言うと、
眉を顰める御仁が多いが、
神社や公園にたむろう
グルッポー♪ ・・・の
ハトではなく、
山鳩種の家禽である。
25歳の頃から11年かけて、
京阪神のフレンチ全店を制覇し、
あしかけ40年の仏料理食歴で、
確固として断言できるのが、
【肉の最高は鳩】
という事である。
ついで、
「コルヴェール(青首鴨)」
「プレサレ
(モンサンミッシェル周辺で育った
塩気のある仔羊)」
である。
ベキャス(山鴫)、
ベルドロー(山鶉)、
フザン(雉)、
リエーブル(野兎)、
シュヴルイユ(鹿)
・・・といった、ジビエも
味わってきたものの、
なんといってもトドメは
「鳩」である。
おそらくは、
血の鉄の味と
肉味のアミノ酸(旨味)のバランスが
もっともエレガントな風味を醸すべく
均衡が取れているのだろう。
ふだん、
スーパーの食材の
豚・牛・ブロイラーに
馴染んでいる舌に、
鳩は驚きの味覚的インパクトを
与えてくれるが、
不幸にも、その平和的なイメージから
忌避する“食わず嫌い”が多いのも
事実である。
同僚の女性先生方と会食した際、
『トルテ・ド・ピジョン』を
(鳩のトルテ)を
幹事としてオーダーしたら、
半数の先生方が残してしまった(笑)。
中には、
一口も出来なかった方も
おられた・・・(笑)。
もっとも、この方は、
スッポンも、コハダも、
駄目だった・・・(笑)。
亀やら鮒みたいなサカナは
生理的に受け付けない、
喰わなくともいい・・・らしい。
ま、誰しも、
冒険する必要はないのだが・・・、
それが極端に過ぎると、
人付き合いや物事との関係性を
狭ばめやしないか・・・と、
老爺心ながらに思ってしまう。
*/*
シェフの料理を味わって
40年近くになるが、
「今までで、最高の逸品・・・」
と、評したいほどの
『クイズィーヌ・ド・ピジョン』
(鳩料理)
であることを
ご当人にも申し上げた。
ヴィアン・ロゼ(薔薇色焼き加減)
よりも、さらに色濃い
ヴィアン・ルージュとも形容したい、
見事に美しくも
ジュ・ド・ヴィアンド(肉汁)を
とどめた火加減であった。
逸材と超絶技巧により、
奇跡の超美味を
舌先から脳髄に
もたらしめてくれた。
確実に、脳内麻薬で
快楽物質の「エンドルフィン」が
ドドーッと堰を切って
脳内全域にあふれ渡った。
天上の夢見心地。
法悦の境。
忘我の時。
脳内エクスタシー・・・etc。
***
一羽丸ごとのオーダーだったので、
続いて、キュイソー(腿肉)と
クール(心臓)、フォア(肝臓)、
などのアバ(内臓)が、
ほろ苦いカステルフランコと
サラダ仕立てで供された。
これまた、
フレンチでないと
なかなか味わえない
“焼き鳥”である(笑)。
ボルドー・ルージュにも
純米吟醸にも
合いそうなグリエであった。
*
ピジョンの興奮が覚めやらぬ処に、
『ガトー・フレーズ』
『ソルベ・ド・ココ』
が運ばれてきて、
ようやく憑き物が落ちたように
平静さを取り戻した。
その甘やかなる
多幸感にも酔い痴れ、
さらにそれを
“体言止め”のように
コキュッと苦みの効いた
エスプレッソが
口内を引き締めてくれた。
*
・・・まことにもって、
幸福に満ちたひと時を、
あの哀しみと不幸のどん底の
『3.11』の前日に味わえた事は、
天地の神々にお礼感謝を
奏上したいほどの気分に
させて頂いた。
・・・きっと、
これは、無意識による、
セルフ・ヒーリングだったのか、
あるいは、
今年度も真摯に
“人助け”の聖職に
奉職してきたことへの
天地神のご褒美なのかもしれない、
・・・と、ふと思った。
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