* 41 *
知識が増えても、行動に影響がなければ、それは現実にはならない。
養老 孟司
*
研修会での同箔体験来、すっかり「カナリ押し」になった十代の女流棋士たちは、「我らが女神様」の動向を逐一チェックし、グループ・ラインで盛り上がっていた。
「カナリ先生。沖縄戦、ブッチだーッ!
八十三手の圧勝スンゲーっ!」
「その後、地元局に出演して、CF(コマーシャル・フィルム)とPV(プロモーション・ビデオ)撮りもしたんだってーッ!」
「どんだけーッ! 女神様ー!」
「あぁ・・・カナリ先生ぃ、L・O・Ⅴ・Eだわーッ!」
「家来にしてほしーッ!」
「そう。桃太郎のイヌでも、キジでも、サルでも、何でもいいよね(笑)」
カナリは、対局後に沖縄でプライベート休暇をとった。
ちょうど三連休にかかったので、名古屋から愛菜、聡美、竜馬を呼び寄せて、「ファミリー・バカンス」をプレゼントした。
妹と弟たちは、いずれ中学か高校の修学旅行でくるやもしれなかったが、その時には寄らなそうな処を愛菜のレンタカー運転であちこちを観て周った。
亡き父は、瀬戸物で有名な「瀬戸市」の生まれで、年に一度開催される『全国陶器市』で、琉球焼の『まじる商店』とは懇意になっていたので、そこにも寄ってみた。
親父さんが亡くなり、息子さんのリュウちゃんが元気に店を継いでいた。
「奥様。ソータ先生には、まことにご愁傷様でございました」
と、彼は深々とお辞儀をした。
愛菜は慌てて、
「龍也さんも、お父様、残念でしたわね」
と、お悔やみを申し上げた。
「ハハ・・・。うちのは歳でしたから、順送りですわ」
と、笑いながら言うと、ホテルから御来店の旨を承っていたので、若旦那はあらかじめ用意していた木箱を差し出した。
「先生がお好きだった次郎さんの花入れです。
どうぞ、先生のご仏壇に飾ってください」
とのことだった。
人間国宝・金城 次郎の素朴な琉球焼が好きだったソータは、先代の大旦那から陶器市で初めて買い求めて以来、その素晴らしさに魅了され、毎年のように市でコレクションを増やしていった。
名古屋のデパートであれば、一点五十万は下らない逸品である。
「お心遣い、ありがとうございます」
愛菜は、丁重にお礼を述べた。
カナリは、娘としても、父が好きだった物を手向けたく、
「わたし、これを頂きます」
と言って、同じく、次郎氏の湯飲みを選んだ。
一緒に選んだ聡美が、
「これで、わたしとリュウ坊で、毎朝、お茶をあげるわ」
と言って、母親を喜ばせた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます