北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

塩野七生著「ギリシア人の物語」を読んで、ウクライナ戦争とリーダーのあり方を思う

2022-03-04 21:00:57 | 本の感想

 ちょうど塩野七生さんの歴史小説「ギリシア人の物語(全3巻)」を読み終えたところでウクライナへのロシア侵攻が始まり、いやがうえにも戦争、民主主義、リーダー、国の隆盛と存亡について考えざるを得ません。

 「ギリシア人の物語」は、紀元前900年代から紀元前200年代中期にかけてのギリシア人とギリシアの都市国家の物語です。

 ただ第三巻は、ギリシア人とはいえギリシア北部に興ったマケドニアの若き王アレクサンドロスによる東方遠征によって、エーゲ海~エジプト北部~中東~インダス川まで版図を広げた英雄譚に割かれています。

 ギリシアの歴史の始めからその隆盛期に至る過程はアテネやスパルタをはじめとする都市国家が一つの単位となって、自らをどのように安定と幸福に導くかの都市国家間競争の様相を呈します。

 その歴史の過程で頭角を現してきたのがアテネとスパルタと言う、これでも同じギリシア人なのかと思わせるような風合いの違う二つの都市でした。

 方や、祖国の防衛に生涯をささげる『戦士』しか意味しない市民による統治を貫いたスパルタと、一方、政治改革を重ねて職人も商人も農民も市民集会に市民として参加し、自分たちのリーダーを自ら選べたアテネ。

 自国の繁栄のみを目指したスパルタに対して、ギリシアの都市連合によって経済的な繁栄をめざしたアテネ。

 ある時期に東からの大国ペルシアの西進に対して、アテネを中心とした連合軍で二度にわたってこれを退けることができたのは、都市国家の中で相対的に有力だったアテネ力が源でしたが、それは一見民主制によって適切なリーダーが選べたから、と後世の我々は思いがちです。

 しかし作者の塩野さんは、「アテネの民主制は高邁なイデオロギーから生まれたのではない。冷徹な選択の結果と必要性から生まれたのだ」と言います。

 そして戦争に勝ち権益を広げて平和で豊かな時期をすごせたのは、また時代に応じた政治改革が行えたのは、結果的に優れたリーダーを選ぶことができたからです。

 しかし実際、アテネの長い歴史を見ると民主制のなかでも優れたリーダーを陶片追放で追い出してみたり、時の感情に任せて不適切なリーダーを選んだこともあります。

『しかし王政、貴族政、民主政、共産政と変わろうと、今日に至るまで人類は、指導者を必要としない政体を発明していない』と塩野さんは言います。

 民主政でも衆愚政でもリーダーは存在する、ただし性質は違う。

 民主政のリーダー … 民衆に自信を持たせることができる
 衆愚政のリーダー … 民衆が心の奥底に持っている漠とした将来の不安を煽るのが巧みな人

 歴史を学ぶことができ現代を生きる私たちも、真に良いリーダーを選べなければ、衰退の未来を招きかねないということは歴史上の事実だと理解しなくてはなりますまい。


      ◆


 現下のロシアによるウクライナへの武力侵攻を憂うばかりですが、この先の両国そして両国民の未来を考えたときに、歴史はどのようにリーダーを書き記すことになるのでしょう。

 国同士の相互の関係性が著しく深まった現代社会は、力だけが支配できる時代ではありません。

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