札幌で中学1年生になった時に、私は確か「走れメロス」だったと思うのですが、それを読んでいて「言うには及ぶ」という表現を疑問に思いました。
どう読んでもこの意味は「言うまでもない」「言わなくてもわかっている」という意味だったのですが、それが「言うには及ばない」という否定形もある一方で「言うには及ぶ」という肯定形もあるという不思議。
当時は幼くて調べてもわからず、国語の先生に「この言うには及ぶ」という表現が不思議でなりません、と質問をしたのですが、そのことを今でもはっきりと覚えています。
残念ながら質問をした1年生の時には先生からの回答はなく日々は過ぎ、やがて中学2年生の春には旭川へ転校していったため、今の今までその質問への答えは得られていませんでした。
そんななか、つい先日ネットをいじっているうちに(そういえば、あの疑問への答えはネットの中にあるのだろうか)と思い立ち、検索をかけてみました。
すると…、おお、答えがYahoo知恵袋のなかにありました!
曰く、「言うに"は"」ではなく「言うに"や"」なのだと。
そしてこの"や"は、係助詞(かかりじょし)のひとつで「分中にあって、述語と関係しあっている語に付属して、その陳述に影響を及ぼし、また、文末について、文の成立を助ける働きをする助詞」なのだそう。
係助詞は口語と文語でそれぞれ分かれてきていて、
口語での係助詞 … 「は」「も」「こそ」「さえ」「しか」など
文語での計助詞 … 「は」「も」「ぞ」「なむ」「か」そして「や」など
で、この「言うにや及ぶ」のなかの係助詞「や」は、疑問・反語の係助詞で、「…だろうか(いや、そうではない)」という使われ方をします。
おかれる位置は、文語では文末だけではなく文中にもつくことがあるのだと。
よって「言うに"や"及ぶ」=「言うに及ぶ"や"」=「言うに及ぶのか(いや、及ばない)」という反語(疑問の形で否定を表す表現)が形成され、結果的に「言うには及ばない」という意味になるのだそう。
ちなみに我が家にある古語辞典(三省堂『全訳読解古語辞典【第二版】)を開いてみると、「文中にある『や』が文末を活用語の連体形で結ぶ『係り結び』」の例として、枕草子から例文が引かれていました。
「近き火などに逃ぐる人は『しばし』と"や"言ふ」
=「近所の火事から逃れる人は『ちょっと待ってほしい』と言うだろうか(いや、そんなことは言っていられない)
つまりはこれなんですね。
ただ、数多い「や」の使われ方と意味からこの解釈を選ぶのは余程慣れていないと無理ですう。
しかしそれにしても、辞書には答えは載っているし、そこに簡便にアクセスできるネットの力も改めて思い知った次第。
50年前の素朴な疑問がいまようやく氷解してかなりすっきりしました。はははー