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北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

兼原信克著「歴史の教訓」を読む ~ 日本は世界のリーダーの一つと期待されている

2021-06-20 23:22:42 | 本の感想

 

 毎朝聞いているラジオ番組が、日本放送系(札幌ではSTVラジオ)で朝7時10分から7時25分頃まで放送されている「あさミミ!」というコーナー。

 日替わりで様々な知識人が最新のニュースにコメントをするのですが、あるときにとても外交関係で見識の高いコメンテーターが登場して、その発言の一言一言にうなづけるものがありました。

 その識者が兼原信克さんと言う方で、調べてみると元々は外務省の職員で内閣副官房長官補(外政担当)を務め、後の2014年1月からは初代国家安全保障局次長として、集団的自衛権行使を部分容認する安保法制をはじめとする重要政策に携わった方だと知りました。

 外務省では元外交官で外交評論家として故岡崎久彦氏を師と仰ぎ、外務省きっての理論家として冷静で現実的な外交絵戦略を持った智略家である兼原さん。

 ご著書があるのかと思って調べたら、昨年上梓された「歴史の教訓~『失敗の本質』と国家戦略(新潮新書)」という新書がありました。

 早速買い求めて読んでみましたが、まあ面白い。

 近世から現代にいたる世界史を俯瞰して、今日に至る我が国の歴史と政治の流れをコンパクトにまとめ上げています。

 著者は第二次大戦における我が国の失敗の本質は何だったのかを冷静に見つめ、その理由として「一つには統帥権の独立という愚策に陥ってしまったこと、なのだが、その背景には、帝国時代のもっとも最後に参入して、うまく利益を得ようとした短絡的な思考があった」と看破しています。

 ではその反省は現在の政治と国民の中に生きているのかどうかを著者は鋭く問いかけます。

 日米同盟と言う枠組みの中で国際政治に復権を果たした我が国ですが、日米同盟強化の旅に政治的批判と混乱を招きつつも、「では具体的に日本をどう守るのか」という真剣な議論はありません。

 その一方で、様々な紆余曲折を経つつ多くの差別撤廃を掲げ自由と民主主義を掲げたアメリカは、グローバルなローカルな価値観を普遍的な価値観に昇華して世界を指導しうる国になり、そのアメリカとの日米同盟は、単なる共産圏に対抗するための防共同盟から、普遍的な価値を持つ大同盟へとその質を変えたのだと。

 著者は「21世紀に生きる我々は、昭和初期の日本人はどうしてあれほど性急だったのか、どうしてもう少し待って様子を見ることができなかったのかを突き詰めて考える必要がある」と言います。

 戦前の日本人は、人類の理性や霊性が徐々に覚醒してそれが地球的規模で広がり、普遍的な価値観が歴史を動かしてゆく姿を想像できなかったし見えなかった、とも。

 20世紀という戦争の世紀を経て今日、21世紀に生きる我々は、皮膚の色や宗教や政治的信条を超えた国際社会を作り出すことを試みなくてはならない。

 それが自由主義的な国際秩序と言うことであり、その実現には後戻りや揺り戻し・抵抗、紆余曲折はあろうけれど、必ず世界の歴史は「自由と民主主義に彩られた世界」という普遍的な価値観を信じて、そこに向かう国際的リーダーの一員としての使命を果たさなくてはならない。

 アジア諸国の中で一足早く工業化を果たし、西側先進諸国の一員としての席を有する日本は、アジアの自由主義的秩序構築を支えるリーダーになれるかどうかが問われている。

 
     ◆

 
 コロナに翻弄されている日常を少し離れて、現代社会の歴史と価値観の変遷を眺めつつ、世界の中であるべき日本の姿について語る著者の声は心に響きます。 

 日本人の持つ「仁」の心や良心、優しさに基づく価値観は世界に通じるものであることを信じて、それに向かう世界を助け貢献する国でありたい。

 読者にそう思わせる、心洗われる一冊です。  

コメント
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