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北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

これからの新老人の姿

2014-05-30 23:53:24 | Weblog

 我が高校時代の友人である黒井克行君が何年ぶりかの本を出版しました。
 
 タイトルは「日野原新老人野球団」(幻冬舎刊)。

 タイトルの"日野原"は、既に百歳を超えて今なお活躍中の、聖路加国際病院名誉医院長の日野原重明さんのこと。

 日野原さんは、「新老人の会」という団体を主催していますが、「新老人の会」とは、高齢化社会が問題視されあたかも増えすぎる老人が社会の活性化を阻み、ひいては医療保険の負担増や年金破綻をもたらす存在として、これからの世代の人たちの夢を砕くかのような社会の論調に与するのをよしとしてなるものかと、2000年9月に日野原さんが立ち上げたもの。

 日野原さんはかねてより、半世紀前に国連が定めた「65歳以上を老人とするとらえ方」はすでに実態に即しておらず、老人は75歳以上として、自律して生きる新しい老人の姿を「新老人」と名づけました。

 新老人の会の会員は60歳以上はジュニア会員、75歳以上をシニア会員といういわば正会員で、20歳以上であれば先輩会員の生き方を学ぶサポート会員になれるそう。この会は2014年現在で、会員数約1万2千名、地方支部は46支部を数えるそうです。

 新老人の会は新老人運動として、三つのスローガンと一つの使命、そして五つの行動目標を掲げています。

 三つのスローガンとは、「愛し愛されること」「創(はじ)めること」そして「耐えること」の三つ。

 「愛し愛されること」は日野原さん自身がキリスト教徒ということもあるのか、愛することそしてゆるし、愛されることを目指すというもの。

 「創めること」というのは、自分の自由になる時間がたっぷりある中で、やれなかったことを始めてみよう、ということで、このスローガンの延長上に「新老人の会」のサークル活動があります。

 三つ目の「耐えること」というのは、不幸や理不尽さにも耐えることが生きがいへの道なのだということ。

 
 そして使命は「子供たちに平和と愛の大切さを伝えること」とされ、五つの行動目標として、「自立・世界平和・健康情報を研究に・会員の交流・自然に感謝」を掲げ、これらに賛同する方々が多く活動している、それが新老人の会というわけなのです。

 
      ◆     


 さて、本書はその新老人の会の中のサークルの一つである"スローピッチソフトボール"の老人チームで平均年齢78歳の「バルーンエルダリー(空飛ぶ老人たち)」のメンバーたちの奮闘記。

 オリンピックで日本女子チームが優勝したのは"ファストピッチソフトボール"というボールを早く投げるスポーツですが、スローピッチの方はピッチャーはボールを高さ1.8m以上3.6m(日本は1.5~3.0m)の高さの山なりに投げなくてはならず必然的にもの凄いスピードの投球が来ることはありません。

 そして守備は10人で行うことが出来て、よく打てる代わりに良く守らなくてはならない、軟式野球よりもまだ優しい草野球、草ソフトボールというイメージのスポーツです。

 それでも投げて、打って、走って、捕球するというのですから、高齢者たちにはハードな運動が求められます。

 そして場面は2009年9月のスーパーシニアチームが参加するスローピッチソフトボールの『日野原重明カップ』という冠大会での物語。

 最も高齢のチーム故に、試合中のプレーがうまくいかず連戦連敗の常勝ならぬ常敗チームがこの大会で念願の一勝が出来るのか。

 老人ならではの頑迷さと、培った経験や知恵と、参加を許されている女性の活躍はどうなるのか。一投ごとの解説で試合を追いかけながらドラマは最終回までもつれます。

 老人故の頑固さと、感情の揺れ、それを抑える経験と知恵、しかしながら長年の酷使で悲鳴を上げる関節と筋肉、動けないもどかしさが交錯しながら、それでも動けることは素晴らしいと感じさせてくれます。

 ときおり挿入される、老いを否定的に捉えず、前向きな生き方を優しく示す日野原先生の言葉に背筋が伸びるようです。


 「生きるということは、齢をとること、老いることです。未知の世界に果敢に挑戦する私たちの生の軌跡が、あとにつづく人たちのための『生きるというモデル』となることを願ってやみません」


 黒井君は、これまではマラソンの高橋尚子さんや往年の野球選手などを追いかけた、どちらかというとスポーツライターなんだと思っていましたが、今回はスポーツに老いの面を加えた新境地を開いたようです。

 高齢者問題を介護や世話のような暗い問題から描かずに、頑張って生きる前向きな存在として明るく読める本に仕上がっています。

 これが我々の行く道でなくてはならないのだろうな、と思わせる一冊。是非お手にとってみてはいかがでしょうか。

 

コメント
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