北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

「体育」の、実は深~い話

2013-12-08 21:48:30 | Weblog

 帰りの飛行機までの間で、仲の良い東京の知人に久しぶりに会って互いの近況を報告しあいました。

 彼はここのところずっと北陸など地方都市で地域づくりの仕掛けをしていて、今やいろいろなところから引っ張りだこになっているよう。

 彼は体育系の大学を出てまちづくりをしているという変わり種ながら、自分の立ち位置を切り拓きながら各地で活躍している姿を見るのは嬉しいものです。

 そもそも体育系の出身となれば先輩後輩の強い絆があって、その繋がりがあれば就職先にも仕事にも事欠かないだろうと思うのですが、どうやらそれは彼の人生の目標とは繋がらなかったようです。

「小松さん、そもそも"体育"って、"体"を"育てる"と書くでしょう?」
「そりゃそうですね」

「では何のために体を育てなければならないか、というと、そこには時代ごとの社会の要請があるんですよ」
「単なるスポーツ力養成ではないのですね」

「違います。日本では明治時代からの体育というのは良い兵隊を作るために国民の体を育てなくてはなりませんでした。貧弱な日本人の体を鍛え直さなくては、欧米列強との争いに勝てなかったからです」
「なるほど」

「戦争が終わると今度は高度経済成長の時代が来ました。今度はもう兵隊さんとしての体ではなく、それこそ24時間戦えるような(笑)労働者としての体を育てるための体育でした。日本国民はそれによく応えて企業戦士となって立派に働いてきたんです」
「なるほど」

「ところで僕は体育系の大学に進みましたが、僕が大学に入った40年前だと、"スポーツスキルを向上させる"というニーズを受けた一つの流れができていました。世界を見ても、近代オリンピックが始まったころからのスポーツ志向と、国民の福利厚生としての体力を育成するという二つの流れはずっと並立していたんです」
「はい」

「しかし僕自身はずっと、体育というものの究極の目的は、このどちらかだけではないような気がしていたんです。体を育てるのは何のためか、この違和感は何なのか、と。
 それで海外におけるスポーツ事情の勉強もしました。するとイギリスなんかは、産業革命を経て農民が工場労働者になって行く過程で、その変化について行けない多くの人たちが落ちぶれた生活を余儀なくされていて、その救済という意味もあって健康な体、ということがテーマになっていったということを知りました。
 ここへきてやっと、体を育てるということは、"五感で幸せを感じるためのベース作り"なんだ、という自分なりのテーマに行きついたんです。つまり、国民全体のパフォーマンスを上げるための体育ではなくて、一人ひとりが幸せを感じて幸せになるための最も基本的なことだってことです。それからはこれが僕のライフワークになりました」
「なるほどねえ、だからスポーツや体育の世界には留まれなかったというわけですか」

「スポーツスキルの指導にしても、体力増強にしてもやれる人はゴマンといますからね。僕の使命はちょっと違ったってことでしょうね」


   ◆   


「以前小松さんと一緒に、福沢諭吉展を見に行ったことがあるのを覚えていますか。あの時に、展示の冒頭の第一部は『あゆみだす身体』というテーマで始まっていたのはある種の衝撃でした。
 諭吉は、身体を人間の最も大切な宝として自己を鍛えていました。それを示す二つの言葉が『身体壮健精神活発』と『先成獣身而後養人心』です」
「ははあ、よく覚えていますねえ」

「二つ目の言葉は『まずじゅうしんをなしてのちじんしんをやしなう』と読み、『まず体を鍛えてから知恵をつけなさい』というような意味です。
 明治時代の思想をリードする大学者が実は手練れの剣豪で、健康がすべての源だ、という理論をあの当時に堂々と述べていたとは驚きでした。
 思想とは空気のように虚空にたれ流せばよいのではなくて、聞いた人を感化して実践へと行動へ移させなくては意味がない、そして何かを実践しようと思ったら、体が健康でなくてはならないと、福沢諭吉は言っていたようにも感じて、とても心強く思ったものですよ」

 
 体と云えば骨や筋肉を強くしてスタミナをつけることばかりのように思われがちですが、歯が丈夫で物を食べて美味しく幸せに感じるとか、体を鍛えておいて簡単に病気にはならないといったことにも十分に気をつけなくてはいけません。

 言われてみれば当たり前のことなのですが、学校の体育となると、多分スポーツスキルの取得という認識が一般的なのではないでしょうか。

 自分の幸せのための基礎的な宝としての体と健康。

 今日はいろいろと考えさせられました。

 
 

 

コメント
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