北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

柔道の心~山下泰裕さんの言葉から

2006-06-05 23:29:21 | Weblog
 昨日までの富士会議では、柔道の山下泰裕さんとたくさんお話しをすることが出来たのですが、今日は書き足りなかったことを記しておくことにします。
 
【柔道の心とは】
 昨日は、山下さんが「自分は我慢が嫌いです」とおっしゃった話を書きましたが、山下さんの柔道に対する思いや生き方には本当に感じることが多くありましたので、改めてご紹介をします。

 山下さんは、現役として20年、指導者として20年を柔道に関わって来ているのだそうです。そんな山下さんは現在日本ナショナルチームの監督に就任されて、年間100日間以上、海外で柔道を教えているのです。

 山下さんは柔道を指導することで日本の文化を教えているのだと言います。そしてその先には日本に対する信頼を得たいという気持ちがあるのだそうです。

「山下さんにとって柔道の心とは何ですか?」
「それは『礼』です。相手は敵ではありません。相手がいるからこそ自分も高められる。だから試合の最中は全力を尽くして相手を倒そうとするけれど、試合が終われば一礼をして相手に感謝をするのです。そしてもう一つのことは、柔道が『道』であるということです。柔道で磨いた自分を人生で活かして行くことです。私は柔道を外国へ教えることは異文化交流だと思っています。そこで友好と親善が図られるのです」

「外国で柔道を指導すると感謝をされるのではありませんか」と訊いてみました。すると
「私は日本人指導者にもっと外国へ行って欲しいのですが、なかなか行きたがる人が少ないというのが実態です。そのうえ、外国で指導する人の中には現地の事情をあまり考えずに、日本流の教えをひたすら押しつけてしまうタイプの人もいるのです」

「それではいけないのですか?」
「柔道にもロシアスタイルやフランススタイルなどがあって、日本スタイルだけが好まれているわけではありません。そこを分かった上で、現地の人達のレベルが向上するように見守って行くのが正しい指導方法だと思います。その点で傲慢だと思われることも多かったのです」

    ※    ※    ※    ※

 実は山下さんが監督に就任される前の国際大会では、試合は敵をやっつけるもので、負けたらそれで終わりだという雰囲気が漂っていたのだそうです。そのため、団体戦で負けたりしたら「ああ、終わった、帰るぞ!」と、大会を最後まで見ることなく会場を後にすることもあったのだそうです。

 山下監督はまずそれを変えさせました。「負けても最後まで残って、敢闘した相手を讃えようではないか」それが礼の道だ、ということです。

「監督になって最初に頼まれたことは、世界中のコーチのマナーが悪いのでそれを改善してくれ、ということでした。大会で、コーチも指導・退場させなければもうやれない、と言う話まで出たくらいです」
「それをどうやって実行したのですか?」

「私には40年の柔道活動を通じて、世界中に知人と知り合いがいます。マナーの悪さで有名なブラックリストに載っているコーチを一人ひとり訪ねて、直接話をすることでマナーをお互いに改善して行こうと説得しました」
「成果はいかがでしたか」

「私の前のシドニーオリンピックは最低だったのですが、アテネオリンピックは最高の大会になりましたよ」


「篠原選手とドゥイエ選手の疑惑の判定はどう思われましたか?」
「今思えば、篠原本人が試合を止めて判定を問いただすという事があったかも知れないと思いますが、それをやっていたら、日本の大会でも選手が試合を止めて審判にクレームとつけるということが起きたでしょう」

「篠原選手はどうだったのですか?」
「彼は試合で負けた後にコメントを求められて『自分が弱いから負けました』と言いました。その言い方に批判をする人や共感をして下さる人、それぞれたくさんいました。実はあの判定で『技あり』が相手に与えられた時点で残り時間が3分30秒あったんです。彼が言いたかったのは、自分が本当に強ければ残り時間で何とかすることが出来たはずだ、ということでした。しかし彼はあの技が決まった瞬間、勝ったと思ったのです。それが相手への得点になってしまった。そのときに、彼は残りの時間の中で自分の気持ちを切り替えて勝つことが出来なかった。そのことをして彼は『自分が弱かったから負けた』と表現したのです」

 ここにも表現と自己主張が苦手な日本人なのではなく、一つの日本人の品格を見ることが出来るような気がします。

 実は世界に伝えたいのはこの考え方の中にある品性や品格だと思うのです。

 あなたにとっての品格とはなんですか?

コメント
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