駒子の備忘録

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宝塚歌劇星組『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

2015年06月19日 | 観劇記/タイトルか行
 赤坂ACTシアター、2015年6月18日ソワレ。

 旅行客や客室乗務員らでごった返すマイアミ国際空港のゲート。FBI捜査官のカール・ハンラティ(七海ひろき)は長年追い続けた男を今まさに逮捕しようとしている。男の名はフランク・アバグネイルJr.(紅ゆずる)。パイロットや医者、弁護士になりすまし、偽造小切手の詐欺で大金を手にした若き天才詐欺師である。拳銃を手にフランクに迫るハンラティ。絶体絶命かと思えたそのとき、フランクが意外な言葉を口にする。「ようこそ僕のショーへ、ここからは僕の物語」そう軽やかに言い放つと、彼は今までいかにクールにやってきたか語り始める…
 脚本/テレンス・マクナリー、作詞・作曲/マーク・シャイマン、作詞/スコット・ウィットマン、日本語脚本・歌詞・演出/小柳奈穂子、音楽監督・編曲/手島恭子。振付/AYAKO,KAZUMI-BOY、装置/二村周作。実話を元にした同名のアメリカ映画を2011年にミュージカル化した作品を宝塚歌劇で上演。全2幕。

 オギー演出でクリエで上演されたときの舞台の感想はこちら。とても楽しかった記憶があります。
 ただ、宝塚歌劇でもやる、と聞いたときには、ちょっと後出し感を感じた、というのはあったかな。ヒロインの出番が二幕からと遅いし、ラブロマンスというよりは父性愛がモチーフだったり主人公のビルドゥングス・ロマンみたいなお話だし、どうかな?と思ってしまったのです。上手く改変できるならいいけれど、海外ミュージカルは契約的にもけっこううるさいことが多いし…と、ね。
 ブロードウェイ版は映像でも見ていないので、クリエ版がそこからどれくらい改変されているのかもよく知らないのですが…今回の宝塚版は、記憶と比べる限りでは、クリエ版をほぼ踏襲していたのではないでしょうか。セットの作り方も似ていたし。歌詞とかは細かく覚えていないのですが。
 だからヒロインのあーちゃんはプロローグに少し出た他はバイトもせずに二幕までお休み。ハンラティの部下3人以外はフランクやブレンダ(綺咲愛里)の両親たちが意外と大きな役だったりするのもほぼそのままで、宝塚歌劇がやるにしてはバランスを欠いて見えたのもやや残念でした。はっちさんとか、そりゃ上手いのはわかってるんだけど、使われすぎというかついこの間もこの劇場で見たけどね!?ってなるしね。背伸びさせてでも組子にやらせてもよかったかもしれません。
 宝塚歌劇ではトップコンビのラブロマンスの他にトップスターと男役二番手スターとのブロマンス要素もあってもいいと思うので、そういう意味では適していたのかもしれません。星組に組替えして初の舞台となるかいちゃんの化学反応も楽しみでしたしね。
 でも、全体にもう少し、丁寧に手を入れて、馴染みやすくわかりやすく作ってくれてもいいのになー、という気がしました。なんか、あまりにまんまな気がして、なーこたん仕事して!って気になっちゃったんですよね。
 初日開いて最初の夜公演に行ったということもあるかもしれませんが、客席もまだまだリピーターが少なくて、お洒落すぎてとっかかりがない舞台に観客がちょっと引いているようにすら思えたので…
 せめてつかみがもう少しよければなあ、と思ったのでした。

 冒頭の空港のシーンはアバンとして問題がなくて、そこから過去を見せていく…というのもよくある手法なのでいいとして、それを宣言(?)する最初のナンバーが、翻訳が悪いのかとにかく歌詞が聞き取れなくて、何を歌っているのかが私にはさっぱりわからなかったんですよね。それでは観客はこれから何を見せられることになるのかさっぱりわからなくて不安なまま、突然歌い踊り出すキャラクターたちを見せられることになるワケで、そら呆然としますよ。これじゃお客のハートがつかめたとは言えません。
 ベニーもかいちゃんもそしてあーちゃんも歌はすっごく上手くなっていて、けっこう難しい楽曲もあったと思うんですけれどとにかく正確な音程が取れているので(オイ)、そのあとのナンバーはまったく問題がなかっただけに、この冒頭が残念でした。
 それから、もともとナンバーが多くてそれでつなぐレビューみたいなタイプのミュージカルなのですが、それでももう少し台詞を増やすというか芝居パートを増やしてほしかったと思います。説明が足りないんだよねー。当時のアメリカの風俗とか、そのまんま出してもそれはオシャレ感なんか演出されないしワケわかんないだけだと思う。そういうことよりもっと重要で必要な、たとえばキャラクターに関する基本的な情報が提示されなさすぎなのです。
 逮捕直前の冒頭場面から遡って、過去の経緯を見せるのはいいとして、ではフランクは冒頭はいくつで遡った最初の場面ではいくつなの?とかね。ベニーが明るい声を出しているのははしゃいだ演技としてなのか若者としての台詞だからなのか、判断がつきづらいというのもありますが、こういうことを役者の演技だけで説明しようとするのは無理ですよ。ハイスクールって言われたって日本と海外では学校教育システムに数年ズレがある場合があることは知られているし、しかもこれは現代ではなく少し昔の時代の話らしいのだから、なおさらズバリ年齢を数字で言ってくれないとぴんときづらいんですよ。そもそも男性ですらない男役が扮しているんだからさ、「見えないかもしれないけど主人公は16歳の少年ってことなんです」みたいなお約束を早い内に提示してくれないと、お客はそもそもスタートで躓くのです。
 実話では彼は老け顔で、だから大人の振りをしていろいろできちゃった、ということらしいのだけれど、普通に見たらベニーはアラサー女性に見えちゃうわけだからさ。観客をもっと丁寧に物語の世界に、彼女が十代の少年を演じている世界に誘導してほしいのですよ。それは演出家の仕事だと思う。
 それはかいちゃんについても同じ。スーツがちょっとへたれた感じだから冴えない中年男ってことなのかな? でもどう見ても素敵美形メガネなんだけど? 映画はトム・ハンクスだったかもしれないけどここではどういうことなの美青年キャラでいくことにしたの?と観客は混乱するのです。ワーカホリックで女房に逃げられたくたびれてちょっと偏屈なでも仕事はできる中年男という設定なのである、ということはもっとずっと早くにはっきりと出してくれないと、困るのです。
 何度も言いますがそういうことを演技で見せて納得させろ、というのは無理だと思う。それは生徒の演技力のありなしとかのレベルの話ではない。
 こういう、ちょっと気を遣っただけでスムーズになることができていない作品って観ていてホントいらつくんだよなー。誰か客観的に見て助言する人いないの? なんならやらせてマジで?
 スタートがこんなで私はホントに冷めたんですけど、でも生徒はみんな熱演でそのあとの歌もホントよくてお話は尻上がりにおもしろくなっていくし芝居の力に感動させられてほろりと泣けたので、なおさらもっと最初っから「キタコレ!」と前のめりになれるくらいのつかみをしてくれたらなー、と思ったのでした。

 というわけで稀代のトリックスター・ベニー(褒めて聞こえなかったらすみません)には確かに向いていたかもしれない演目で、『メイ執』『ジャン・ルイ』もまあまあよかったし、ベニーは主演作に恵まれているんだなあ!
 口八丁手八丁の天才詐欺師で、でも実は両親の離婚に傷ついているナイーブな少年で、理想的な父親像をハンラティに見ていて…いじらしい、可愛らしいキャラクターだな、と素直に思えました。
 一時期迷走して見えたお化粧もすっきり綺麗になっていたし、歌は本当にしっかりしていてよかったです。さらにハートが乗るようになるともちろんもっといいけれどね。出ずっぱりの大変な舞台を楽しそうにやってのけているのもすごくいいことだと思いました。
 みっちゃんの新生星組でゼヒさらに一皮剥けて、より大きくなっていってほしいと思います。
 組替えしたかいちゃんもナウオンなど見ているとメンバーによく馴染んでいるようで、何よりこの作品のテーマや本質をよく理解し、かつこう演じたいこう作りたい!という意志がしっかり感じられるトークをしていて頼もしく、そしてそれをしっかり体現して見せていて、とても素敵でした。
 そしてちゃんとカッコいいし、何よりハートフルなお芝居に泣かされました。歌も本当に良くなったよね…(涙)
 あーちゃんは、ブレンダはおそらくはもっと地味なくらいフツーの娘なのがお話としては正しいのかもしれなくて、それからすると華がありすぎるんだけど(^^;)、これまたキュートででも全然カマトトっぽくなくてよかったです。かつて席からズリ落ちる思いもした歌も本当に良くなって…何が起きたんだみんな!(^^;)
 FBIスリーアミーゴーズもこの先きっともっと良くなっていくんだろうな、せおっちがやっぱり上手いなーと思いました。
 あんるちゃんのフランク・ママ、ポーラ(夢妃杏瑠)は、もうちょっと弾けてくれるのを期待していたのですが…クリエ版のユミコが素晴らしかったのが印象的だったので。大きい役だし、チャンスなんだし、さらにがんばっていただきたいです。
 娘役ちゃんたちは基本的にアンサンブルでのナンバーが多いのだけれど、ソロ・パートもそれぞれあるし、だんだん見分けられてくると(^^;)またより楽しくなりそうですね。でも歌は全体的に弱かった、みんなもっとがんばっていただきたいわ。あと、もっといい感じのセクシーさも研究の余地アリだと思いました。中途半端だとかえってヤラしくてヘンなので。
 真彩希帆はちょっともったいなかったかなー、劇団はどういう起用をこの先考えているのかな…?

 フィナーレはなし。カテコでベニーが挨拶を毎回ムチャぶりしているようで、なかなか楽しかったです。みんながんばって応えていこう! 別に舞台がちゃんとしていればアドリブ力なんかなくてもいいのかもしれないけれど、宝塚歌劇はやはりスターを愛でるものでもあるので、素が出たときにチャーミングに思われてなんぼなところもあると思うのです。テンパって何もできないのはせっかくのチャンスをもったいないぞ、と思ったので。
 新生星組に幸多かれ!




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