駒子の備忘録

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『友達』

2021年09月07日 | 観劇記/タイトルた行
 新国立劇場、2021年9月5日14時。

 ひとりの男(鈴木浩介)が暮らす部屋に、ある日、見知らぬ9人の「家族」が現れる。彼らはそれぞれに親しげな笑みを浮かべ、あっというまに男の部屋を占拠してしまった。何がなんだかわからない男は、警官(長友郁真、手塚祐介)や管理人(鷲尾真知子)、婚約者(西尾まり)、弁護士(内藤裕志)に助けを求めるが…
 作/安部公房、演出・上演台本/加藤拓也、美術/伊藤雅子。51年に発表された短編小説『闖入者』をラジオドラマ化、テレビドラマ化ののちに67年に青年座のために『友達』と改題された戯曲。74年には改訂版も書かれたが、今回はそれを現代口語にしての上演。全1幕。

 たまたま『砂の女』と続いてしまって安部公房祭りになってしまいましたが、こちらも原作は未読。劇団た組の加藤拓也の演出、というのと、『コントが始まる』が素晴らしかった有村架純の7年ぶり2度目の舞台だというので興味を惹かれました。あと俺たちの大島優子と結婚した林遣都な!(笑)
 その他のキャストも実力派揃いで素晴らしかったです。私は浅野和之、段田安則、山崎一が好きでその出演作にはホイホイ呼ばれてしまうのですが、今回はふたりも出ていて、さらに鈴木浩介、キムラ緑子、鷲尾真知子…イキウメで観た大窪人衛、『どんぶり委員長』の井原六花もいて、好みすぎました。そして豪華かつ的確でエグい配役なのでした…
 この「家族」は大人数である必要があると思うんですよ。だから三兄弟、三姉妹が必要なんですね(「三」というのは神様の数でもありますよね…)。で、それぞれにきちんと役まわりというかキャラがあってちゃんと描写されているし演技されているんだけれど、観客はそういっぺんには受け止めきれないし処理しきれないじゃないですか。その補助線として、テレビでみんなが知っているような役者をこの長男と次女に、置く。そこが上手いし、怖いです。彼ら自身はキャスティングの意図をどう思っているのでしょう…そういうイメージだと捉えられていることもまた武器だと思っているのかな。まあ他人が持つイメージなんてコントロールできないものだしな。はー怖い。
 主人公が男だから、三兄弟の方はわからないけれど、三姉妹の方は、今後次女は長女のようになっていくし三女は次女の役まわりをするようになるんだろうな、と思えるのも怖いです。祖母の役が、初演は祖母でその後の上演はずっと祖父で、でも初演以来男優がやっていて、今回も途中から祖母にすることにした、というのも怖い。歳をとると性別はなくなってしまうものなのでしょうか、怖い。でも役者の性別と揃えることに特に意味がない場合もある、とも考えられるし、とにかく何もかもが怖いです。
 インターネットとか多様性とかコロナ禍とかが重ねて見えなかったとしても怖い。純粋な暴力が怖い。つながっているロープ、というかぶっちゃけ腰縄が怖い。シンプルな、セットとも言えないセットが怖い。その中で床に作られた玄関扉が怖い。照明(服部基)も怖い、ノイズミュージック(谷川正憲、萩谷まきお)も怖い。お化けとかゾンビとか殺人鬼とかのホラーとは違うけれど、とにかく怖くて素晴らしい90分でした。
 オチとか救いとか希望とかがないところも怖くて、でも、いい。正解なんかないからです。この世界でどう生きるかを突きつけられて、我々自身が生き抜くことで答えを出すしかないものだからです。演劇というもののごくシンプルな根幹を、改めて突きつけられた気がしました。怖くて泣きそうでしたが、楽しい体験になりました。
 大阪公演まで無事完走できますように!


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