駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

劇団た組。『今日もわからないうちに』

2019年08月31日 | 観劇記/タイトルか行
 シアタートラム、2019年8月28日19時(初日)。

 恵(大空ゆうひ)と一志(鈴木浩介)、中学二年生の娘・雛(池田朱那)で暮らす大西家。恵は妻を亡くした実父の一郎(串田和美)に毎月金を渡している。一志は出会いカフェで出会った女の子・吉田(山谷花純)に毎月金を渡している。ソフトボール部の雛は新しいグローブが買ってもらえない。ある日、恵は父のお金を稼ぐパート先の主婦友達とのランチをした帰りに、家への帰り道がわからなくなる。「家」だけを忘れる記憶障害になったのだ…
 作・演出/加藤拓也、音楽/谷川正憲(UNCHAIN)。全一幕。

 何度か言っていますが私はナチュラル日常会話が続くタイプのナチュラル芝居が嫌いで、それは私がもっと論旨明晰にしゃべってとっとと話を進めんかい!とイライラしてしまうからなのですが、実際には人ってこういう感じにダラダラしゃべるよねとも思うし、そういう会話を舞台の脚本として書ける劇作家の脳ってどういう構造なんだろうなあ、きっと私なんかとは全然作りが違うんだろうなあ…と感心したりはします。まあ私は劇作家では全然ないんですけれどね。あとこういう会話を書く人は意外とこうはしゃべらないんじゃないかな、とも思ったり。すっごく無口だったり、ものすごく理屈っぽい話し方をする人だったりするんじゃないかしらん。ところで「劇団た組。」の舞台はいつもこういう感じなんでしょうか? 私は初めての観劇でした。
 それはともかく、こういうなチュラル日常会話劇を演技でする役者ってまたすっごく大変だろうなすっごく難しい技量がいるのだろうなと思うのだけれど、出てくる人みんな達者で仰天しました。またこのサイズの舞台、作品にしては登場人物が多く役者の数も多く、その贅沢さにも驚きました。贅沢なことはいいことです。
 そしてヒロイン、主役と言っていいであろう大空さんよ! 素晴らしかった!!
 いやファンがスターの何を知っているんだよと言われてしまえばそれまでですが、でも私たちファンは知っているつもりでいるんですよ大空さんが恵みたいな女性では全然ないってことを。でも、恵その人に見えました。もしかして大空さんが結婚して中学生女子の母親になったらこんなになるの!?ってくらいのリアリティがありました、すごい。こんなじゃないはずなのに、こんな経験だってないはずなのに、そう見えました、すごい。
 そして恵はなんということもないごく普通の主婦、妻、母親で、すごく魅力的なキャラクターだとかいうことも特にないはずなのだけれど、そのリアルさゆえに観客に親近感を抱かせ、感情移入を誘っているなと思いました。その吸引力も役者の力量なんだろうし、大空さんの芝居はずっとずっと好きでしたが、改めてすごい、と驚倒し感動させられました。引き寄せられ、集中させられました。これは記憶を巡る物語で、大空さんが宝塚歌劇の男役だったこともトップスターだったことも忘れられないし忘れたくないことですが、それとは別に、今の女優姿が素晴らしいな好きだな、と改めて思ったのでした。
 しかし私は妻でも母親でもなくその意味では「娘」に一番立場が近く、またこの雛役の役者も上手いので、だんだん今度はこちらの立場になって泣いちゃいそうになったり、でももっと話が進むと恵が「娘」であったころの事件に事態はそもそも起因するのでは、と思うと再び恵に気持ちが沿って怒り暴れたくなり…と、とにかく心震わせられる舞台でした。
 ただ、オチがわかりませんでした。
 大西一家の家はよくあるごく普通の家庭に一見見えて、けれどすでにして最初からちょっとおかしくて、椅子が倒れていたりするのを登場人物たちが芝居とともに正しく立てたりなんたりするのはいいとして、冷蔵庫が寝ていてソファやベッド代わりに使われているのは明らかに変だし、洗濯機がキッチン代わりになっているのは異常です。この家族は、どこにでもあるごくごく平凡な一家のようですでにして歪んでいます。だからこそ恵は発病するのです。
 後半突然舞台奥に現れる愛人の家がまた異常なのです。そもそも今どきのこれくらいの年齢の男性が若い女を囲えるほどの金を持っているのかが怪しいものですが、まあまあ若いらしい劇作家にこれはリアリティがあるのかしらん。さらにこんな若く美しい愛人が金はいらないがつきあいは続けたいと言うとかありえるのかしらん、それごとファンタジーでそもそもこの舞台の物語は幻想なのかしらん。ひとり暮らしだとしても実家住まいだとしても今どきあんな家具であんな暮らしをしているあれくらいの年齢の女なんざ存在しないでしょう。でも手前の大西家よりは整然としていて豊かですらあるように一見見える、その嘘寒さはいいなと思いました。
 でも、オチがわかりませんでした。
 途中、耳障りなくらいに笑う男性の観客がいたのですが、どこに笑っているのかさっぱり私にはわかりませんでした。一郎の言動にもそれにおたおたするだけの一志にも私はイライラするばかりで、さっさと手を下した雛に快哉を叫びたいくらいでしたが、男性はやはり男性キャラクターに感情移入してさもありなんと笑っちゃえるのでしょうか。私は自分が子供の頃に祖父母と疎遠で、たまに家に来られたときにも家族と思えずに居心地の悪い思いをした経験があるので、断然雛派でした。ましてもしも恵の母親がそんな状態だったとしたら、たとえばこれは女性に遺伝するとかそういうものなの?とかも思うと怖くなってなおさら怒り暴れるしかなくなるし、そうでないにしても記憶障害とかアルツハイマーとか認知症とかってまあまあ身近な病気かもしれず、脳天気に笑っていられるはずはないだろうとしか思えなかったのですが…
 なので殺して埋めるんで全然いいと私は思いますが、しかし死体は穴に見立てられた冷蔵庫に中途半端にしまわれ、冷蔵庫の扉が閉まらず、親子3人がうんうん唸って閉めようとしても閉まらない様をかなり長く見せたあとにやっと暗転になって舞台は終わったのでした。
 …オチがわかりませんでした。
 記憶こそがその人を作り、人と人との関係性を作る。忘れてしまったら血のつながった家族ですらバラバラになりかねない。その怖さ、もろさ、はかなさ、だからこその愛しさ、尊さに涙した中盤から一転、そもそもそんな障害を引き起こすようなトラウマが恵にあって、それもまた母親の記憶障害に原因があった事件だったのだとしてもやはりひどいことで、そのせいで恵が壊れ今また雛の目の前から失われそうになっているときに、とりあえずなんの解決にもならなくても大元の人を殺して埋めてなかったことにしたくなるでしょう人は。だから雛は正しいよ、雛の行動はたとえ衝動だろうと正しいよ。このときのために恵から幼き日にソフトボールを習ったのだと言ってもいいくらいです。
 ただ、そうは言ってもそれだけではすまされないのが世の中というものだし、だからこそどうオチをつけるのかを楽しみに観ていたのですが…私にはオチが理解できませんでした。何を表してしるのかわかりませんでした。一家が一致団結してよかったね、ということでもあるまいし、ないことにしてしまえることなど何もないのだ、ということでもないようだったし…
 私には、わかりませんでした。それだけが残念です。私はなんでもわかりたい派のので。わからなくてもいいんだ、とかがわからないので。舞台として、作品として、物語として、オチが、結論が、意味が、私は欲しいのです。なので残念でした。





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3 コメント

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Unknown (あー)
2019-09-01 12:04:48
駒子さんへ

「オチがわかりませんでした」
激しく同感です。リアル過ぎる展開に途中から救いを求めながら見続けて、恵と雛が公園で語り合うシーンでやっと落ち着いたと思ったら、違う展開になってどうなるの?と思ったらあれがオチですか…って感じでした。
観る側の解釈に委ねる終わり方の作品なのかも知れないけれど、意図するものが前向きでないと結論が出しにくいので、作者自身が結論を放棄したように感じられました。
また、私は本編では笑えず斜め後方の席から聞こえる台詞が掻き消されるほどの笑い声に辟易していました。

それでもアドリブなんじゃないかと思えるほどの台詞の掛け合いと間に感動しました。タイトルに惹かれて観にいったのですが、緩やかさはなくリアル過ぎましたね。大空さんも池田さんも役には見えなかったです。

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オチの解釈 (あーさんへ)
2019-09-03 15:57:59
コメントありがとうございました。
椅子がベンチみたいなのがアレなのですが、
大好きな劇場で、大空さんのお芝居が観られて楽しかったです。
でもホント、オチはねえ…???
観客に解釈をゆだねる系オチってときどきありますけど、
やはり上手く導いてくれないと、とか、こういうことだよね…?と類推できるようにしてくれないと、
単に放り出されたようで呆然とするしかないですよね…
オチがない物語とかやめてほしいです…

私は雛ちゃんもとてもそれっぽく見えました。
これくらいの女子でこういう子いるよなー、と。

次の大空さんの舞台はまた毛色がちがしそうで、楽しみです!

●駒子●
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Unknown (あー)
2019-09-04 00:07:06
大空さんの舞台は初めてで、自然過ぎる芝居を堪能出来ました。

あれから気付けば、各場面の意味やあの家族のこれまでや、ラストの解釈を考えてしまう自分がいて、あえて描かれていないことを想像させる割合の多い作品だったと思います。リアリティーの高いテーマの舞台作品ともなるとそうすることで奥行きが出るのかもと感じてもおりました。

初めての劇場でしたが後方でも観やすく、ベンチ式の背もたれの低い椅子も好きでした。大空さんの作品に於てもまた観劇の機会があればと思います。
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