駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

三浦しをん『仏果を得ず』(双葉文庫)

2011年11月05日 | 乱読記/書名は行
 高校の修学旅行で人形浄瑠璃・文楽を観劇した健は、義太夫を語る太夫のエネルギーに圧倒されてその虜になる。以来、義太夫を極めるため、傍からはバカに見えるほどの情熱を傾ける中、ある女性に恋をする。恋か芸か悩む猛は…

 歌舞伎とか文楽とかにあまりくわしくない無教養な私でも楽しく読める青春小説でした。
 そして恋愛のあり方もいい。健が真智とすぐ結婚を考えないのがいい。
 真智のことは好きだしつきあいたいし、夫がいるより死別と聞いて安心するのもわかる。
 でもじゃあ結婚したいか、結婚できるか、ミラの父親になるのか、なれるのか…ということはまた別の問題ですよね。
 そこをごっちゃにしてぐたぐだ悩む展開のドラマもよく見るけれど、健にはそういう発想がない(今は、かもしれませんが)のか潔くていいなと思ったのです。
 好きだから一対一できちんとつきあいたい、というだけで、結婚とか将来とかまで頭がいってなくて、でもそれは彼が決して無責任とか刹那的だということではなくて、ひとつひとつきちんとゆっくりやろうとしている真面目な人間だからだ、と思える。
 そして現に真智はシングルマザーとして健よりきちんと稼いできちんと暮らしているくらいで、彼女の方でも健との再婚を望んでいるのかどうかなんてわからないし、そんなことは言及されていない。でもきちんと筋つけてつきあおうとしている、それは十分すぎるほどわかる、恋敵がたとえ自分の娘であろうと、です。
 その人間性、関係性がすばらしいなと思いました。

 兎一郎夫妻も好きです(^^)。

 酒井順子の解説もすばらしい。
 以下引用。

 通常の恋愛もしくは恋愛小説であれば、
「あなたよりも仕事の方が大切です」
 と男が言った瞬間に、その恋は終るはずです。しかし「芸」とはおそらく、仕事ではありません。芸の道という底なし地獄に生きていることを自覚する人達は、家族よりも何よりも、芸が大切に決まっているのです。

 この物語は、文楽に対する三浦さんからの恋文です。同時にこの作品は、三浦さんが銀太夫や健と同じように「芸」の世界で生きる人であることの証明でもあるのでしょう。三浦さんが文楽の世界に心を奪われ、その世界を上質な文学作品として転化することができるのは、彼女もまた、底なしの地獄を嬉々として生きる鬼だからなのです。


 いい。
 エッセイ『あやつられ文楽鑑賞』も買ったので、読むのが楽しみです!
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