シアターコクーン、2019年7月12日19時。
山を背負い、海を抱く町。都市のきらびやかさとは無縁のその町は、人慣れした野生の猿が田畑の作物や人家の食べ物を狙って荒らし、ときには人間まで襲う危害に悩んでいた。青木保(向井理)ら町の男たちは猿害対策のための自警団を結成し、日々不毛な争いを繰り返していたが…
作・演出/赤堀雅秋、美術/土岐研一、照明/杉本公亮。全一幕。
劇団THE SHAMPOO HATの作品を観たことがなかったのですが、こういう作風なんでしょうか。「ミニマムな、市井の人々のありふれた生活、その機微をいかに丁寧にすくい取り、舞台上で最構築するか」に腐心してきた作家さんだそうですね。
でも、好みだけで言えば私はこういうタイプの作品は苦手です。映像か、小説でならいいと思うのだけれど、舞台でやる意味をあまり感じないし、舞台ってその場で生身の役者が演じるものだから当然生っぽいので、その現実そのままのリアリティにイライラさせられてしまうのです。そのリアルなおかしみやせつなさに眼目を置いているのだろうとわかるのだけれど、私は心が狭いので、笑えなくて、イラついたりムカついたりしてしまうんですね。現実のことは現実でやっているんだから、舞台ではもっと違うものを観たい、と思うタイプなのです。映像チックに場面を切って、暗転の間に本舞台の転換をするために役者を客席登場させて照明もそっちに強く当ててそこを舞台にして…というのも、ほぼすべての場面転換がそれで煩わしいし、観にくく感じました。まあ見えなくても話はわかる、という芝居をしているんですけれどね。
役者は上手いし、笑うしかない情けない状況が続くし、話はまとまらないしまとまりかけるととんでもないことが起きる、ウソ臭いようでわりと現実ってそういうところあるよね…みたいなの、すごくわかるんですけれどね。
でも、オチがとても良かったです。というか私の好みでした。だから救われました。つまりオチだけが綺麗で、物語的で、リアルにはない綺麗さだったからです。
これは震災8年後の、津波の被害があった町の物語であり、工事途中の防潮堤が海の眺めを遮っている町の物語です。けれどラストシーンで保と直子(田中麗奈)の夫婦はその防潮堤の上に登って静かに海を眺めていて、そのままゆっくり手をつなぎ合う。わかりやすい。
おそらく彼らの娘のマナミは「愛海」と書くのでしょう。直子は妊娠しているのでしょう。そう思わせられる、ラストらしいラストでした。
猿害は解決されていないし、片岡さん(平田満)の順子さん(秋山菜津子)への恋は実らないし、節子さん(銀粉蝶)の認知症も回復することはない。東京へ行った美紀(横山由依)が幸せになっているとも限らない。そういうものです。それでも世の中は続いていく。海と空はそこに美しく青くある。そしておそらく新しい命が生まれてくる…美しい「物語」でした。そこに至る、過程の表現の手段が好みでなかっただけで。もう何本か観てみたいなと思いました。
向井理は、最近自分が観た舞台では田中圭とか高橋一生とかもそうだったんだけれど、こういう普通の男を演じさせたときの破壊力が本当に素晴らしいですね。普通の男って要するに、ちょっとダメだったりかなりアレだったりするってことです。演技力があってそういう駄目さ、卑怯な感じなんかのリアリティを出すのが抜群に上手い。そして適度にハンサムなのが最高にイラついて、いい。当然ですが褒めてるんです。
そして田中麗奈はこれまた普通に上手い。適度に美人だけど適度に疲れている生活者としての女をちゃんと演じてみせていました。ラストシーンについては後ろ姿だし私の想像でしたかないけれど、カテコで彼女はちょっとお腹を突き出すような歩き方をわざとしているように見えました。本来あそこはすでに役ではない部分なんでしょうけれど、とてもいいなと思いました。
コクーンにかかった赤堀芝居に皆勤賞の大倉孝二、そら上手いよね知ってる。大東駿介は私は舞台で初めて観たかも、でも上手いですね。というか下手な役者がまったくいない座組でしたね。元AKBの横山由依も、全然「東京に出そうな女子」に見えないところがすごかったです。わざとなんだろうけれど全然美人じゃなくて驚いたくらいでした。いい女優さんになりそうですね。
あと、役者として出ている赤堀さんがすごくいい味を出していて、こういうキャラクターを作家自身がやりたくなる、やっちゃった方が早いと考えちゃうのはちょっとわかる気がしました。でも、単にファンだから秋元菜津子を妻に配役したってのはずるいわあ(笑)。
向井くん目当ての、普段演劇を観なさそうな観客も多そうで、どう響いたのか、あるいは全然響かなかったのか、それはちょっと聞いてみたいなと思いました。
開演前に今年のベタなJ-POPがロビーや客席に流れていたのも、効果的だったと思います。そういうのは本当に上手いなと思いました。またひとつ、いい勉強になりました。
山を背負い、海を抱く町。都市のきらびやかさとは無縁のその町は、人慣れした野生の猿が田畑の作物や人家の食べ物を狙って荒らし、ときには人間まで襲う危害に悩んでいた。青木保(向井理)ら町の男たちは猿害対策のための自警団を結成し、日々不毛な争いを繰り返していたが…
作・演出/赤堀雅秋、美術/土岐研一、照明/杉本公亮。全一幕。
劇団THE SHAMPOO HATの作品を観たことがなかったのですが、こういう作風なんでしょうか。「ミニマムな、市井の人々のありふれた生活、その機微をいかに丁寧にすくい取り、舞台上で最構築するか」に腐心してきた作家さんだそうですね。
でも、好みだけで言えば私はこういうタイプの作品は苦手です。映像か、小説でならいいと思うのだけれど、舞台でやる意味をあまり感じないし、舞台ってその場で生身の役者が演じるものだから当然生っぽいので、その現実そのままのリアリティにイライラさせられてしまうのです。そのリアルなおかしみやせつなさに眼目を置いているのだろうとわかるのだけれど、私は心が狭いので、笑えなくて、イラついたりムカついたりしてしまうんですね。現実のことは現実でやっているんだから、舞台ではもっと違うものを観たい、と思うタイプなのです。映像チックに場面を切って、暗転の間に本舞台の転換をするために役者を客席登場させて照明もそっちに強く当ててそこを舞台にして…というのも、ほぼすべての場面転換がそれで煩わしいし、観にくく感じました。まあ見えなくても話はわかる、という芝居をしているんですけれどね。
役者は上手いし、笑うしかない情けない状況が続くし、話はまとまらないしまとまりかけるととんでもないことが起きる、ウソ臭いようでわりと現実ってそういうところあるよね…みたいなの、すごくわかるんですけれどね。
でも、オチがとても良かったです。というか私の好みでした。だから救われました。つまりオチだけが綺麗で、物語的で、リアルにはない綺麗さだったからです。
これは震災8年後の、津波の被害があった町の物語であり、工事途中の防潮堤が海の眺めを遮っている町の物語です。けれどラストシーンで保と直子(田中麗奈)の夫婦はその防潮堤の上に登って静かに海を眺めていて、そのままゆっくり手をつなぎ合う。わかりやすい。
おそらく彼らの娘のマナミは「愛海」と書くのでしょう。直子は妊娠しているのでしょう。そう思わせられる、ラストらしいラストでした。
猿害は解決されていないし、片岡さん(平田満)の順子さん(秋山菜津子)への恋は実らないし、節子さん(銀粉蝶)の認知症も回復することはない。東京へ行った美紀(横山由依)が幸せになっているとも限らない。そういうものです。それでも世の中は続いていく。海と空はそこに美しく青くある。そしておそらく新しい命が生まれてくる…美しい「物語」でした。そこに至る、過程の表現の手段が好みでなかっただけで。もう何本か観てみたいなと思いました。
向井理は、最近自分が観た舞台では田中圭とか高橋一生とかもそうだったんだけれど、こういう普通の男を演じさせたときの破壊力が本当に素晴らしいですね。普通の男って要するに、ちょっとダメだったりかなりアレだったりするってことです。演技力があってそういう駄目さ、卑怯な感じなんかのリアリティを出すのが抜群に上手い。そして適度にハンサムなのが最高にイラついて、いい。当然ですが褒めてるんです。
そして田中麗奈はこれまた普通に上手い。適度に美人だけど適度に疲れている生活者としての女をちゃんと演じてみせていました。ラストシーンについては後ろ姿だし私の想像でしたかないけれど、カテコで彼女はちょっとお腹を突き出すような歩き方をわざとしているように見えました。本来あそこはすでに役ではない部分なんでしょうけれど、とてもいいなと思いました。
コクーンにかかった赤堀芝居に皆勤賞の大倉孝二、そら上手いよね知ってる。大東駿介は私は舞台で初めて観たかも、でも上手いですね。というか下手な役者がまったくいない座組でしたね。元AKBの横山由依も、全然「東京に出そうな女子」に見えないところがすごかったです。わざとなんだろうけれど全然美人じゃなくて驚いたくらいでした。いい女優さんになりそうですね。
あと、役者として出ている赤堀さんがすごくいい味を出していて、こういうキャラクターを作家自身がやりたくなる、やっちゃった方が早いと考えちゃうのはちょっとわかる気がしました。でも、単にファンだから秋元菜津子を妻に配役したってのはずるいわあ(笑)。
向井くん目当ての、普段演劇を観なさそうな観客も多そうで、どう響いたのか、あるいは全然響かなかったのか、それはちょっと聞いてみたいなと思いました。
開演前に今年のベタなJ-POPがロビーや客席に流れていたのも、効果的だったと思います。そういうのは本当に上手いなと思いました。またひとつ、いい勉強になりました。
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