駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

劇団☆新感線『天號星』

2023年10月18日 | 観劇記/タイトルた行
 THEATER MILANO-Za、2023年10月15日14時。

 元禄、大江戸八百八町。今日も仕事を探す男女で大繁盛の口入屋の藤壺屋。主人の半兵衛(古田新太)は、裏では世のため人のため、悪党を始末する「引導屋」の元締めとして知られている。だが実は顔の怖さを買われて婿に入った、気弱で温厚、虫も殺せぬ男で、表も裏も真の元締めは女房のお伊勢(村木よし子)であった。半兵衛は表稼業にも裏稼業にも関わらず、占いが当たると評判の神降ろしの巫女みさき(久保史緒里)のもとに日々通っている。そんな半兵衛に、お伊勢の娘で凄腕の殺し屋・早風のいぶき(山本千尋)は距離を置いている。そこへ、江戸で名を挙げようと、金さえ積めば誰彼かまわず斬り殺す、はぐれ殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)が現れる…
 作/中島かずき、演出/いのうえひでのり。劇団43周年興行、秋公演。全二幕。

 お友達がチケットを当てすぎたというので、誘っていただきました。どんだけ…(^^;)
 イヤしかし楽しかったです! ハコのナンダカナー感を押して余りある満足感でした。なんせお友達のおかげでオペグラ要らずの上手前方、さらに後ろは一列取っ払って通路にしてあるというお席で役者が通る通る! お隣のお友達は通路席だったので、角を曲がる役者のお衣装にバンバン撫でられていました(笑)。全体を観づらいと言えば言えますが、臨場感あふれる観劇体験ができました。そして何より舞台がとてもとてもおもしろかった…!
 そもそもは、「古田と成志と聖子が戦うときだけ、早乙女太一と早乙女友貴と山本千尋に変身する」という、やや卑怯な(笑)発想が発端だったようですね。「チェーンジ」!と唱えると変身するんだそうです(笑)。『薔薇サム2』で古田新太の五右衛門が化けると早乙女友貴になってアクションする、というのがあったので、その流れからの発想でしょうか。でもあってもいいですよね、だってフレンチミュージカルって歌手とダンサーが別でひとつの役だったりするらしいじゃないですか。そのノリで、芝居と殺陣が別の人だけど同じひとつの役、ってのはアリなのかもしれません。
 でもまあ、今回は、入れ替わりものになったわけですが…雷のショックで、ないし巫女の神通力のせいで…? なので顔は怖いが実は虫も殺せぬ気弱な男と、優男に見えて史実は狂犬、見境なしの殺し屋の男が入れ替わってしまう物語に仕上がったのでした。つまりこのタイトルは『転校生』の駄洒落なんですよね多分…!
 というわけで、中が古田新太になってしまった、というかそういう演技をする早乙女太一が観られるわけです。さっきまで暗い目をしてズハズバ人を斬っていた殺し屋が、突然震えて刀を取り落とすような、へっぴり腰で脚もガクブルの、下がり眉で大口ぽかんと開けて甲高い声で「どうなってるの~!?」と情けなくわめく、そんな早乙女太一きゅんが観られてしまうのでした。そら優勝だろ!(笑) ちなみに中が早乙女太一になった古田新太はキリッとした表情を作って仁王立ちしていたらカッコがつくんだから卑怯です(笑)。イヤすごいアイディアです。
 ここに、早乙女太一をつけ狙ってきた早乙女友貴が襲いかかるんだからさあタイヘン、です。この勝手知ったる兄弟の殺陣がまたもうものすごいんですよ! 中が早乙女太一のときはもちろん、中が古田新太になってへっぴり腰で逃げてしのぐだけでももうものすごい大アクションなのです。まさに「ガチンコの“チャンバラ芝居”」でした。そこにさらに中国武術の世界ジュニアチャンピオンでアクション女優の山本千尋(『鎌倉殿の13人』のトウです!)のアクションが加わるわけで、もうホント速くて目がついていかないくらいでした。すごいすごい!
 そして、チャンバラ主眼でもお話がちゃんとしっかりしていて、そういう見応えもありました。
 半兵衛は、婿入り先のお伊勢にも元カノの弁天(高田聖子)にもやや軽くあしらわれていますが、彼の方はすごく彼女たちに誠実で、お伊勢の連れ子のいぶきも大事にしているし、弁天の娘みさきも自分の娘と信じて可愛がっていたわけです。弁天が言うように実は他の男の子供だったのかは、よくわかりません。本人にもわからないことってあるかもしれないですしね(^^;)。でも、事実がどうでも半兵衛は娘たちを慈しんでいる。この、妻と娘のためにがんばる男の物語になっているところがいいな、と私はすごく感じ入りました。
 時代劇だと、まあお話の作り方にもよりますが、どうしても家父長制的な、父と息子の物語とか仇討ちとか忠義とか、そういうお話になりがちな気がするんですよ。でもこの作品は、まあ武家社会の話ではないから(悪役として悪徳奉行とかは出てくるけれど)、というのもあるかもしれませんが、そういうマッチョな視線があまりないな、と思ったのです。もともと新感線ってわりとフラットですしね。
 今なんかインセルの男とかが「女を守って死にたい」とか「国のためになら戦争行って戦って死んでもいい」とかほざいてますけと、守るとか戦うとかってそういうことじゃないだろう、と言ってやりたいんですよね。ならまずモラハラやめろとか、痴漢行為を見かけたら止めろ、性犯罪の加害者を責めて被害者を責めるな、あと履いてる下駄脱げとか言ってやりたいわけでさ。おまえらが守りたがるドリーム女なんて存在しないし、そういうドリーム生き様はどこかよそでやってくれ、と言いたくなるのです。
 でも半兵衛は、気弱で情けない男かもしれないけれど、すごく地に足がついていて、妻も元カノも娘ふたりのこともすごく大事にしていて、彼女たちのためになることをしようとしているんですよね、常に。その人としての心ばえの美しさに感動しました。そういう主人公、そういう物語を描いているこの作品にも。
 それからすると、なので半兵衛は報われてほしいので、この顛末やラストは可愛そうなのではないか、彼にはなんら非がないのに…というのは、ある。でも世の中って、因果応報ばかりじゃなくて、とんでもない事故ってあるわけじゃないですか。それこそ虫も殺せぬ善良な人が幸せに大往生できずに、無念の不慮の死を遂げることはありえるわけです。半兵衛も、それなのかな、と思うのですよ…けれど彼は性根がまっすぐなので、そういうことを全部引き受けて去っていく。というか去ろうとするところで決まって終わる、歌舞伎でよくあるオープンエンドっつーか「まずはこれ切り」みたいな終わり方なんですけれど、でもそれがめちゃくちゃカッコよかったし、この囲みをなんとか切り抜けたらそのあとは、どこかの田舎で誰にも知られずひっそり畑でも耕して存外幸せに暮らして終われるのかもしれない…とも思えたのです。それくらいの大きな心を持つ主人公だったと思いますし、それを、中に古田新太がいるものとして早乙女太一きゅんが演じきってくれたのでした。いやあぁカッコよかったーーー!!!
 一幕ラストに、ドカンとタイトルロゴが出て斬り結ぶ早乙女兄弟がモーションストップしてシルエットになって終わる、ってのもカッコよかったけれど、大ラスもホント痺れました、カッコよかった! もうもう気持ちよく拍手しちゃいました。
 乃木坂だという久保史緒里も、求められたであろうアイドルっぽさ以上に舞台女優としての線の太さを見せていましたし、山本千尋もアクションだけでなく芝居がしっかりしていて大好感。いつもの粟根まことや池田成志、吉田メタルなんかの安心感はもちろん、聖子さんも村木さんもホントかっけー! あとキャラとしては弁天の手下みたいなこくり(中谷さとみ)もよかったです。本当に神通力があったのは彼女だったのかもしれないなと思わせたり、でも大一番前にさっさと荷物まとめてトンズラするところとかが(それをきちんと描くところが)本当によかった。人間や世の中というものを見る視線が信頼できて、そしてその上でおもしろいエンタメを作ろうという姿勢があるのを知っているから、新感線観劇はいつも楽しいのです。
 まあまあ人は死ぬし、理不尽さも虚しさも悲しさもある物語だけれど、やっぱり爽快でもある、そんな不思議な作品でした。新感線にしては短めの休憩込み3時間、というのもいい。しかしこれをマチソワやるとかホントどんだけ早乙女兄弟…!
 東京公演はもう終盤ですね。大阪大楽までどうぞご安全に。たくさんの人が観られて、爽快な気分を味わえますように。念じています…!






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