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「竹下村誌稿」を読む 122 質侶庄 9

(散歩道のハナミズキ/4月20日撮影)

「天澤寺殿三百年記録」の講義資料、一気に20ページまで進んだ。残り、13ページである。これから、メインの「献立」に入るが、そこがなかなか難物である。

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「竹下村誌稿」の解読を続ける。

(板垣)兼信廃せられしより以後の本荘は、何人の所管となりしか知り難きも、或るは佐々木盛綱が一度、本荘を管理したるには非ずやと、思わしむる形跡あり。そはその郎党たる宇田太郎信秀は、前節にも述べし如く、建久中、本庄に居住したりしものゝ如くにして、郡志、質侶庄の条に、

何らの名称にて、佐々木氏の、本庄を管理したるには非ずやと思わるゝ節あり。そは東鑑、建久元年(1190)十月の条に、十三日甲午、遠江国菊川宿に於いて、佐々木三郎盛綱、小刀を鮭楚割(さけすわやり)に相添え(折敷に居き)、子息小童を以って、御宿に送り進じ、申し云う。只今これを削り、これを食しむ処、気味頗る懇切、早く聞食(きこしお)すべしや、云々。殊に御自愛、かの折敷、御自筆で染められ、曰(のたまわ)く、
※ 楚割(すわやり)- 昔、鯛・鮭などの魚肉を細く割って干した保存食。削って食べる。
※ 折敷(おりしき)- 食器を載せる食台の一種で、四角でその周囲に低い縁をつけたもの。すなわち方盆のこと。
※ 小童(こわっぱ)- 小僧。若僧。
※ 気味(きみ)- 香りと味と。
※ 聞食(きこしおす)- 召しあがる、お飲みになる。
※ 自愛(じあい)- 自分のものとして珍重すること。


   待ち得たる 人の情けも すわやり(楚割)の わりなく見ゆる 心ざし(志)かな
※ わりなし - この上なくすぐれている。何ともすばらしい。

とあり。これもとより、佐々木信綱のこの地に居住したりと云う確証とはならざるべきも、その子息小童、御宿に送り進ずと云うもの、別に近江などの遠国より齋したる様にも非ずして、却って上洛の供奉して、我が所住の地に来たりしを以って、聊か馳走の意を表したるが如くなるのみならず、歌の意味も、その迎接の情を歓べるものゝ如し。
※ 迎接(げいせつ)- 出迎えて応対すること。

と云えり。按ずるに、板垣兼信が本庄の地頭を廃せられたるは、建久元年(1190)八月にして、頼朝の菊川に宿したる、その十月なれば、或るはこの間に於いて、何らかの名称にて、佐々木氏の管理したりしものなるやも知るべからず。兎に角、本庄と佐々木氏とは何ら没交渉なりとは看過し易からざるべし。而も、菊川は質侶庄内なれば、佐々木氏の新知として、珍客の来泊として、特に歓迎せし状況は、郡志の云う所に似たり。
※ 新知(しんち)- 新しく手に入れた領地。
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