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「江戸繁昌記 ニ篇」 43 箆頭舗1

(庭を覆った山苔 / 今日、雨の後で撮影)

ふと気付いて見れば、我が家の庭を山苔がびっしりと覆っていた。昔、庭に苔を敷き詰めたくて、山から頂いて来た山苔が、一進一退を繰り返しながら、30年以上もこの庭で地味に生き残っていた。それが、この秋のの長雨で、息を吹き返して、庭に繁茂するようになっていたのである。目にしていても気付かずに、やっとこの頃気付いたのである。もっとも少し日照りが続けば、たちまち枯色になって、また庭の隅で息を潜めるようになってしまうだろう。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。今日からしばらく「箆頭舗」の項である。

     箆頭舗(カミユイドコ)
※ 箆頭舗(のとうほ)- 理髪店。

史進が青龍(ホリモノ)九紋、風に翻(ひるがえ)り、忠常が紅炬(タイマツ)一把、日に揮(ふる)う。布帷紙障綵画爛発、各々記識を作して、以って招牌と為す。
※ 史進(ししん)-「水滸伝」の登場人物。精悍な美丈夫で上半身に九匹の青竜を象った見事な刺青があるため、あだ名は九紋竜。
※ 忠常(ただつね)- 平忠常。平安時代中期の武将、豪族。父は陸奥介平忠頼で、房総平氏の祖。平忠常の乱は、平安時代に房総三カ国で1028年に起きた反乱。平安時代の関東地方では平将門の乱以来の大規模な反乱であった。
※ 一把(いちわ)- 一束。
※ 布帷(ふい)-布製の垂れ幕、几帳など。室内に垂らして隔てとする。
※ 紙障(ししょう)- 唐紙。紙を張った明かり障子。障子。
※ 綵画(さいが)- あやぎぬの絵。
※ 爛発(らんぱつ)- あざやかに現れること。
※ 記識(きし)- 書きつけること。しるしておくこと。
※ 招牌(しょうはい)- 看板。


戸内一辺は沐盤、水甕などの物を具え、一辺は胡床を安じて、以って来客を待つ。舗主を親方と曰う。業を助くる者を剃出(スリダシ)と曰う。(劇舗、これ二つ、これ三つ)中央に一箇の剃櫛具(はこ)を安置し、二人、匣を夾(はさ)んで立つ。
※ 沐盤(もくばん)- 洗い鉢。洗い桶。
※ 胡床(こしょう)- 寝所や座席とするため、高く大きく設けた席。
※ 舗主(ほしゅ)- 店主。
※ 剃櫛具(そりくしぐ)- 剃刀と櫛などの理髪道具。


その人多くは、蓬髪剌髭、その職に居て、然し、これをその身に修めず。諺(ことわざ)に所謂(いわゆる)、儒者の不修身、醫者の不養生と一同軌轍なり。
※ 蓬髪(ほうはつ)- 蓬(よもぎ)のように、のびて乱れた髪。
※ 剌髭(らつひげ)- 伸び放題のひげ。
※ 軌轍(きてつ)- 車の通ったあと。軌跡。転じて、先人のおこないのあと。
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