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上越秋山紀行 上 9 二日目 清水川原村

(秋山第一の入口、清水川原村の図 /この処、家二軒切り)

台風11号が四国に近付いているが、午後、掛川文学講座へ出席した。台風は午後11時過ぎに、四国の室戸近辺に上陸したとのニュースを先程聞いた。

「上越秋山紀行 上」の解読を続ける。

この処、家を算(かぞ)えれば、纔(わず)かに白屋二軒。壁と云うものなく、茅をもて四方柱一本も、二軒ながら見えず。荷そい桶屋が入魂(じっこん)なる定助と云う家、路さして行く傍らに、青黒き真石の大なる一つ岩の凹みより落ちる滝は、格別高きと云うにはあらねども、その真景いもいはれず
※ 白屋(くさのや)-白い茅(かや)で屋根をふいた貧しい家。
※ そう(副う)- たずさえる。
※ 真石(しんせき)- 自然石。
※ 真景(しんけい)- 実際の景色。実景。
※ いもいはれず - えも言われず。言葉で言いようもない。



(秋山家作図 / 屋根は替る事なし。土壁附けるは甚だ稀かにて、多くは図の如し。
茅を蓑(みの)毛の如く掻い付け、故に柱は外より見へず。)

(やが)てその家へ休らうに、幸い主も草鞋掛けにて居合せ、果して先ず疱瘡の事を問うに、去る春以来、上田も取分け塩津にもないと云うに、主が云う。うらは今年井戸蛙のように、里へは一度も出なんだ、と答う。秋山人は同様に思いしが、その人柄、格別里人に替わる事なし。
※ 草鞋掛け(わらじがけ)- わらじをはいていること。わらじをはいたままであること。
※ うら - 一人称の人代名詞。おれ。われ。
※ 夷(えびす)- 都から遠く離れた未開の土地の人。田舎者。


さりながら、その妻、半斤ばかりの入りし茶袋を出して、鍋欠の耳の処を持ちて、俄かに茶を煎り、大きなる白木の垢附きたる盆に、茶碗二つ並べて出しけるに、その妻、茶釜にて大きなる茶碗に茶を立てるを、予もそれ一つを乞いけるに、先ず一盃は立てず、呑みなさいと云い、手に取る時、馳走らしく一盃に汲んだるを、手震いこぼれて堪え難く、
※ 立てず(たてず)- 立てよう。

  指先きに 煮え茶こぼれて 忍びかね
    腹に立てとは これを言うらん

※ 腹に立て -「お茶を立てる」にかけて、「腹を立てる」ここから来たのかと、おどける。

またこの家の内壁を見るに、横に三尺位ずつ隔て、細木のはつ敷を柱に入れて、葦簀(よしず)を竪に結いつけ、外面は図の如く、茅にて柱一本も見えず。とび/\に窓も甚だ少く数もなし。仏壇と見え縄を以って板を釣り下げ、古き仏画の掛軸一、二幅かけ、太神宮の御祓、恵比寿、戸隠の札も張り見えたり。

   丹梯漸過二軒村   丹梯(さかみち)漸く過ぎて、二軒村
   此地云清水川原   この地、清水川原と云う
   環堵立寄乞煎茗   環堵に立寄り、煎茗を乞えば
   俄焚巨火炉邊温   俄かに巨火を焚きて、炉辺温かなり

※ 丹梯(たんてい)- 仙境への道を言う。
※ 環堵(かんと)- 小さな家。狭い部屋。また、貧しい家。
※ 煎茗(せんめい)- 煎茶。お茶。
※ 巨火(きょか)- 大きい火。
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