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今、考えている その13

(庭に一房だけ咲いたアセビ)

山に登る。苦しいけど登る。高い山だと空気も薄い。しかしがんばって登る。どうして登るのかと聞かれる。どうしてと聞かれても答えられない。答えられないけど登るのを止めない。返答に困って「そこに山があるからだ」と答えた登山家がいた。迷答である。答えを聞いた人たちは納得したような顔をした。しかし理解したわけではない。

自分も考えてみた。そして結局、達成感だよな。3000mの山を踏破したという達成感。疲れの極限で、山頂の岩に腰を下ろし目を瞑る。これ以上高いところはもう無い。疲れ切った身体の底から、喜びがふつふつと湧き上がってくる。目を開けると360度視界をさえぎるものは無い。幾つもの山が山頂を見せて、手招きしているように見える。すでに病み付きになり、次はどこへ登ろうかと考えている。ほんの5分前までは、苦しさに2度と山には来るものかと、考えていたのではなかったか。山頂に立つだけなら、ロープウェイで山頂まで登れる山もある。しかしそんな楽をして山頂に立っても喜びは無い。

身体を痛めつけるハードなスポーツほど、この達成感は大きい。生理的に言うならば、自分の身体の危機的状況に対して、脳が脳内物質を分泌する。一種の麻薬性のある快楽物質である。駄賃のように与えられるその脳内物質で、人は病みつきになる。どうしてそんな危険なことに身をやつすのだ、といわれようと止められない。山で凍死寸前の人に出る脳内物質と同系統のものと、今は言っておこう。この脳内物質は、科学的に検証されているのかどうか判らないが、多分間違いないだろうと思う。自分の体験から。

人体は栄養が不足すると肉体の筋肉さえも分解して、脳の保持のための栄養として消費するという。脳内物質を出す目的も生命の保持である。肉体ではなくてその精神、脳の機能の保持のために脳内物質は出される。人間の脳の回路は意外とやわい。ハードな状況が続くと自壊していく危険が大きいのである。

世の中にはたくさんの麻薬がある。摂取すると快楽が得られる。それを使うと習慣性があって止められなくなる。つまりは麻薬を摂取すると快楽に感じる能力は、人間の脳が始原的に具えた能力なのであろう。人体には脳に脳内物質を出すことで、人間をコントロールする機能が元々備わっていた。それを人間は、同様の物質を体外から摂取することで、コントロールを不能にしてしまった。それが麻薬といわれるもので、麻薬に反応する能力は、人体が元々有していたものである。麻薬は人間をコントロール不能にしてしまう点で、排除されるべき毒薬なのである。
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