河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

1582- 沼尻竜典「竹取物語」(世界初演)、沼尻竜典、トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ、他2014.1.18

2014-01-19 00:16:06 | オペラ

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2014年1月18日(土)3:00pm 横浜みなとみらいホール
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沼尻竜典 作曲・台本 竹取物語 world premiere
(日本語上演、日本語字幕スーパー付き)
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   第1景16′
   第2景12′
   第3景21′
   インターミッション20′
   第4景12′
   第5景31′
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キャスト(in order of appearance)
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おきな(翁)、山下浩司BsBr
おうな(媼)、加納悦子Mezzo
かぐや姫、幸田浩子S
石作皇子、小堀勇介T
庫持皇子、大山大輔Br
阿倍御主人、大久保光哉Br
大伴大納言、晴雅彦Br
石上麻呂足、近藤圭Br
石上麻呂足の使者、森田皓boy-s
帝、友清崇Br
大将、小堀勇介T
月よりの使者、中島郁子Mezzo
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栗友会合唱団
トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ
指揮 沼尻竜典


さて、オケメンバーがはいってくるのかと思いきや、池辺晋一郎さんがマイク片手に5分、熱く語る。沼尻の1作目のオペラ、その世界初演ということでの話しかと思うが、余計な前提無く真っ白な状態で聴きたかった。開演前のプレトークならそこに居なければいいだけの話だが、定刻に合唱が整列し終えてオケメンバーが入る直前であり、半ば強制的なトークヒアリングとなりました。残念なことです。パレットに何かが零れた後での世界初演となってしまいました。一番大事な時に余計な事態が発生する。どこの世界でもあることとは言え。
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自作自演の世界初演。演奏会形式としてあるが実際にはホールオペラのスタイルに近い。日本語上演で日本語字幕スーパーがつく。かぐや姫の吐息がかかりそうな限りなく前方に座ったので字幕は首を右左しないと見えない状態だったが、席的には声を明瞭に聞きとることが出来ましたので個人的には字幕スーパーはいらない状態でした。

ステージ前方の指揮台、録音マイクの筒、ソリストの譜面台、これらはモスグリーンの竹模様、いい雰囲気です。
その後ろ、オーケストラがあって、合唱、そして奥の壁はスクリーン代わりでオペラの流れに沿って絵が変わる。それ以外にも爆竹やライトなどいろいろと仕掛けがあった。
沼尻はあまり深刻ぶった指揮ではなく、実に楽しそうだった。内容もノスタルジー、メランコリー、ウィット、ミュージカル風、いろいろ出てくる。難解なところはまるで無く、変に東洋風な味付けが濃いわけでもなく、ストーリーの断片を拡大して展開することもなく、慣れ親しんだストーリーをストレートに淡々と進めていく。次から次へと場面が移っていくので目耳を離すことが出来ない。
沼尻が初めて作ったオペラにもかかわらず気張るところが無く、一からのスタートであるということを、奇を衒うことなく謙虚に示した佳作であったと思います。
過大なペシミスチックのようなものはないのに、なんとなく泣けてくるというのは悲しさよりも日本人の郷愁を呼び起こすような原体験や日本人であることの誇りのようなものがDNAにアドレナリンを注がれたような状態になり、感動に誘われたということのほうがより強い為と感じました。
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第1景
【おじいさんが竹の中からかぐや姫をみつけ、おばあさんにみせる。】
神秘的な情景なはずだが、沼尻の曲はむしろなにか懐かしい、ノスタルジックな響きだ。ここらへんで既に、気張らないオペラであることが見える。単純にして最初に最後が見える、つまりそういうことだと思います。
神秘的開始にしてしまうとあとが大変ということもありますし。
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第2景
【3か月で成人し、あまりの美貌に世の男たちが列をなす。】
かぐや姫が成人し、美しすぎる自分の現実をどうやって受けとめるか、高慢に走るか内にこもるか、音楽は第1景よりやや動きが出てきて、序奏のあとの第1楽章とでも言えるものかもしれない。そして5人の男たちが先を切ってひれ伏し、かぐや姫から求婚のための無理難題を押し付けられる。
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第3景
【難題を押し付けられた男衆が3年後に戻ってくる。】
さながらスケルツォ、動きの激しい情景で一番受けるし笑いも誘う、上品なジョークやウィットのきいた場面が続く。内容はトゥーランドットを即座に思い出します。
この5人の男衆が難題を解決して一人ずつ、かぐや姫の前で口上し見破られる。第2景の最後に見られた5人衆の衣装はスーツでありながら、まさしく性格俳優的な衣装であり、そのまま第3景に継続し、アクションともども非常に楽しい場面であった。おとこおんな逆だったらちょっと暗くなる場面だと思う

が、女性が、よりどりみどり(ではない)男たちを痛快にコケさせるあたり、エンターテイメントの世界で、ミュージカルでも見ているような面白さであった。ここで音楽の幅がグーンと広がったと思います。
亡くなった5人目の代わりに使いのボーイ・ソプラノ、ここで物語がまた次の展開を呼ぶわけです。見事な流れと思います。
そしてもうひとりいるよ、と。
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休憩
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第4景
【かぐや姫の評判を聴いた帝が合いに行くが拒否。】
この情景は夜かな。
帝がかぐや姫に合いに行き求婚するが、拒否。和歌を詠んで交換し合おうと、純日本的なやり取り。
短いシーンですが、休憩前の動きのある情景までがまるで物語の前段だったのかのように落ち着いた感じ、しっとりとした流れがいい。
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第5景
【ようやく気持ちが通じ合うようになった。月に帰したくない、でも最後は帰る。】
この最終景は30分を超える。シーンも3つ4つ作れそう。
かぐや姫が月に帰らないよう帝の兵たちと戦争だと、しかし兵士の体は動かなくなる。UFOに乗ってやってきたエイリアンのほうが知能が高くて魔法をかけられたのか、と思いたくなる。ここらあたり、舞台でやるといろんなバリエーションを組めるような気がしました。未知との可能性ですね。罰で地球に来たのだったのか。
前半の激しい動きから後半はしんみりとしてくる。沼尻の節(ふし)は妙に日本っぽくなることなく進む、第1景が再帰してしたような気持になる。月に帰るのも竹に戻るのもあまり変わらない。音楽は場面に合せて次々と進んでいく。
最終的には帝とは一緒になれない、でも悲劇でもない、そのあたり西洋昔話には無いような淡くも切ない日本風味のストーリー、最後、富士山が出てきて盛り上がり最終的に弱音終結となる。ここの盛り上がりは聴衆を意識したサウンド的に強烈な場面が必要ではあったのだろう、かぐや姫はこのオペラ一番のハイ音を響かせ月に帰る。富士山はそのあとのシーンとなります。弥栄三唱。
最後、弱音にしたのは正解だったと思います。
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席が前だったため、声に関しては聴こえにくいといったことが全くなかった。明瞭な日本語で質が高く秀逸であったと思います。
舞台の冒頭は、おじいさん、これも性格俳優風ではありますが、この役どころ、ツボにはまり物語が展開するのを安心して楽しむことが出来ました。おばあさん、かぐや姫、まさしく山の神、竹の神、苦笑とでも言いますか、完全に恐妻ですな。いつの時代も変わらないということで。
おじいさんおばあさん、歌とセリフが見事に決まっており途中、演劇風なところもあったりして、なんだかセリア、ブッファがハイブリッドしているようなおもむき。
かぐや姫はもともと存在自体が性格的なところがあるためか、どっちにも偏らないむしろ中性的な魅力をたたえていたと思います。
皆さんの独唱は素晴らしいものでした。そして二重唱、三重唱も呼吸がぴったりでお見事。
帝の位置づけは男5人衆と一緒の扱いのような気がしました。5人衆の個性爆発な演技、歌、本当に楽しめました。帝の演技もどちらかというとそれに引きずられる感じで。
それから合唱のレベルが非常に高く驚きました。よく合っていて威力ありましたね。感心が安心に変化していきました。
オーケストラはホールオペラ風な舞台なれば、このサイズで妥当。前のソリストの声も消えない。ピットで演奏するとしたら、もっと濃い演奏が必要でしょう。彫の深い演奏が欲しい。サラサラしている。もっと力強くしなやかに。
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それよりも何よりも、自作自演者の沼尻の棒が深刻ぶらず、ときにはこれ以上楽しいことはない、みたいな雰囲気の棒で、自らの曲をこれ以上なく自在に振ることができ、一番の幸せ者は沼尻ご本人であったことは間違いない。聴衆もブラボーコールたくさん、十分楽しみました。
来年2015年の2月、ベトナムのハノイで本名徹二の棒でオペラ上演されるとのこと。それを経験すれば、沼尻の2曲目も大きく期待していいと思う。
素晴らしいオペラありがとうございました。
おわり