2010年1月16日(土) NHKホール
オール・チャイコフスキー・プログラム
オトマール・スイトナー追悼
バッハ/アリア
チャイコフスキー/スラブ行進曲
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
ピアノ、清水和音
チャイコフスキー/くるみ割り人形、第2幕
ジョン・アクセルロッド 指揮 NHK交響楽団
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ローレンス・フォスターがキャンセル。
かわりにジョン・アクセルロッドが振った。
また、この演奏会の少し前にN響名誉指揮者のオトマール・スイトナーが亡くなった為、冒頭にアクセルロッドの棒でバッハのアリアが演奏されました。
ローレンス・フォスターが健康上の理由により、2プログラムをキャンセルし、最初の1プログラムは尾高さんが振り、2プログラムの方は15日16日とアクセルロッドが振った。はじめて見る指揮者です。雰囲気はなんか昔のフォスター。
ドライブしていくような雰囲気はなく、指揮姿も内容もすっきり、売れ筋の指揮者のようにみえます。誰のまねでもない、権威を背負ったこれ見よがしの振りでもない、非常に好感のもてるもの。
プログラム後半のナッツクラッカー第2幕は、メロディーの親しみやすさなどといった言葉が木端のように飛んでいく人生行路昇天期の大傑作。あふれ出るメロディーだけに耳を奪われていてはいけない。
第2幕の演奏で今でも忘れがたいのが、テミルカーノフ指揮レニングラード・フィルによる1989.10.11の異様な太さが今でも記憶に残る。
チャイコフスキー本人はこの曲を作曲した後、2年もたたず死んでしまうなんて夢にも思っていなかったかもしれず、極度に美化された想像は抑えなければならない。が、
シンフォニックで巨大な曲。シンコペーションを意識して抑制していると感じられる曲だが、そのかわりかどうかブラスの全奏による後拍がものすごい。バレエ曲であることをあらためて気づかせてくれる。
どうしようもないNHKホールではあるが、オケピットを潰して全体が前に出てきてからなんとなく音がよく聴こえるようになったような気がする。横幅が広すぎるのが毎度違和感があるが、半分のワインヤード型と思えば我慢もできる。それで、冒頭のコントラバスである。響く。ロシア型のとんでもないコントラバス・サウンドのまねはどこの国のオーケストラでもできないけれど、今日の鳴りは結構良かった。このオーケストラバランスがいきなりシンフォニックなものを感じさせてくれるのだ。それまでにないチャイコフスキーの筆。
アクセルロッドはシーン毎にきっちり切って、シーンのイメージを浮かべてから振りはじめる感じ。さらっとさっぱりしている。
でも、例えばパ・ド・ドゥ序奏の大団円。圧倒的なシーンではそれなりのうねりを作るそのツボを心得ている。代役だが曲のことをよく知っていると思う。
尻尾のしつこさがないのが今日のチャイコフスキー演奏の特徴かもしれない。圧倒的であるがさっぱりしている。好感のもてる指揮。
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前半2曲目のピアノ協奏曲では昔とすっかり変容してしまった清水さんのピアノ。めったに聴くこともないが、タッチが軽い。深くないと思う。非常に微妙で繊細で平均台上のバランスのようなデリカシーがなんとも言えない。一個崩れたら全部壊れてしまうような、それでいて決してそのようなことは起こらないような、そこがベースの技術の確かさなのだと思う。人相は変わってしまったが、みずみずしい感性は昔と変わらない。その様に聴こえる。
冒頭の松崎さんはじめホルンもお見事。セカンドの女性はどなたですか。そういえばフルートのトップはどなた?高木さん?(*後記*宮崎由美香)
各セクションの首席が一斉にそろうのをたまには見たい気がするが、これはこれで。
前半一曲目はスラブ行進曲。コーダのチャイコフスキー的しつこさが好ましいとは言えない曲ながら、今日はアクセルロッドの棒が確実に効いていて、いわゆる行進曲になっていた。N響が行進曲を演奏すると、重くなるというか、生真面目すぎで、ブラスの後拍などがうまく流れない、それにもましてピラミッド型の音響バランスを行進曲にも追い求めてしまうことにより、縦に進む感じ。が多いが今日の演奏はうまく流れた。スラブ行進曲は行進曲というにはかなり大げさな曲だと思っていたが、速度、音量、強弱バランスなど重い割には軽やかという変な結論に達した。コンパクトで垢を取り去ったいい演奏でした。
ところでアクセルロッドは指揮棒を持たないでポーディアムに向かう。それでいていつの間にか棒を持って振っている。左の袖に隠しているだけ。サンティも同じようなスタイル。
アクセルロッドは一拍目を構える瞬間に左袖から取り出す。なんだか日本刀みたいだ。
John Axelrod
おわり