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新国立劇場2008-2009シーズンのリゴレット初日にいってきました。
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2008年10月25日(土)14:00
オペラパレス、初台
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ヴェルディ/リゴレット
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リゴレット/ラード・アタネッリ
ジルダ/アニック・マッシス
マントヴァ公爵/シャルヴァ・ムケリア
スプラフチーレ/長谷川あきら
マッダレーナ/森山京子
モンテローネ公爵/小林由樹
ジョヴァンナ/山下牧子
マルッロ/米谷毅彦
ボルサ/加茂下稔
チェプラーノ伯爵/大澤建
チェプラーノ伯爵夫人/木下周子
小姓/鈴木愛美
牢番/三戸大久
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指揮/ダニエレ・カッレガーリ
演出/アルベルト・ファッシーニ
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東京フィル
新国立歌劇場合唱団
東京シティ・バレエ団
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ヴェルディのオペラでは好きなもののひとつ。キャストがそろった公演にはほぼ必ず行く。
ジルダよ、おまえはどうしてそんなにも無垢だったんだ。
リゴレットは復讐の刃を、はずかしめを受けた娘に向けてしまった。
なんたる悲劇。
こんなにもいたたまれないオペラはほかにない。
慟哭のリゴレットにこの先はあるのか!
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このシーズンの新国立初日のトゥーランドットと同じような2階席であったのだが、あのときはバンダの位置がちょうど2階席レベルということもあり、ソリストたちの声が聴こえてこずかなりストレスがたまったが、今日は3人ともに高音から低音までよく出ており、こちらの気持もトゥーランドットの分まで一緒にすっきり吐き出した感じ。
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舞台はシックな色合いで落ち着いており美しいものだ。このオペラに茶化したような演出は無用であり飽くまでもオーソドックスなスタイルこそふさわしい。
第1幕冒頭の夜会の場の人たちの衣装も印象的。
場面が変わり、殺し屋が出てくるが、この時点でリゴレットは彼を必要としているわけではないが、職業?は違うがしていることは同じようなものだと妙に共感している。非常に魅惑的な音楽というのも変だが、通奏低音のような妖しいチェロはまさに絶妙。
リゴレットを歌うアタネッリは幾分線が細くて、背中のこぶよりスマートさが先に立つようなところがあるが、よく声が出ており、また音楽に合わせた振り付けがぴったりときまっておりそのオーソリティぶりが発揮されている。
ここでようやくでてくるジルダはまだうぶであり歌い手のマッシスもまだおとなしいものだ。安定していて声もよく出ている。
そして偽貧乏学生を慕って歌うカバレッタもケバケバしさがなく本当の気持ちが出ているような歌で、難しい高音も思い切りよく乗りきり好感の持てるマッシス。
第1幕の最後の場では、第一の勘違いとでもいうべき夜会連中による人さらいが行われる。ここは演出が難しく、今日のこのプロダクションでも、目隠しされたリゴレットが近くにいながら、人さらいたちがリゴレットの家からチェプラーノ伯爵夫人をさらうようなステージになっており違和感を隠せない。
ただ、夜中の緊張感を表すヴェルディのピアニシモはますますその度合いを高めていく。見事な音楽というしかない。
第1幕は長い。ここまで約1時間。
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最近ではこの第2幕冒頭のマントヴァのアリアさえテレビのコマーシャルの音楽になっている。女心の歌だけではない。
マントヴァ公役のムケリアは最近の観た聴いたオペラの中では出色のテノールだ。鼻に響かせる声ではなく、喉を思いっきり広げ、そこかしこの腔道に声をガラスのように響かせたようなオープンな声。見事なイタオペ・サウンドだ。高音は輝かしいもの、また低音もよく出ており、その正確な歌唱ともどもこちらのストレス解消にもなる。
そして、核心をつくリゴレットの演技、歌。
悪魔め、鬼め。
動きがいい。白熱の演技。
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痛々しいジルダがマントヴァの寝室からでてくる。逆上するリゴレット。この二人の掛け合いは最高。
そして第2幕フィナーレ、大胆な転調の嵐であるが、この短い3連符とあとは長いオタマジャクシだけの音符がこんなにも見事に流れる音楽になるなんてヴェルディ中期の才気には完全に脱帽だな。
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第3幕。ジルダは、ここを去るように言ったリゴレットの意に背き、悪だくみ兄妹の居酒屋に舞い戻ってきてしまう。ここで悲劇は決定的なものになり、嵐のような稲妻に拍車がかかる。
最初にいきなり歌われるマントヴァ公爵の女心の歌は、今日のムケリアにより完璧に表現された。この歌はジルダの死の認識への伏線になるだけに重要な歌なのであるが、第3幕までこのメロディーラインが一度も出てこないというのはいつも不思議に思う。歌のあとそのままの節でオーケストラがフルサウンドで繰り返すとき、なんとも言えずリピートの感動に浸ることができる。
悪だくみ兄妹、スプラフチーレの長谷川あきら、マッダレーナの森山京子、ともに声が出ていた。だから4人で歌う、美しい愛の娘よ、も性格の違いがよく表れており横の広がりの大きなオペラ展開になっていたと思う。
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こういった感じでいろいろと書いていけるが、やっぱり生を観るに限る。リゴレット特有のダダダッ、ダダダッのリズムや、突然来る静寂。このドラマの異常なまでの緊張感。悲劇ながらいつも強く惹かれる魅力を持ったオペラ。
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