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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

浦起龍 『史通通釈』

2013年10月17日 | 東洋史
 浦起龍(1679一1762)は清中期の学者。無錫出身。康煕時代に学校試に合格して秀才となったが、その後長く郷試に合格せず、約30年間、郷里で私塾を開いて教えていた。雍正七年(1729)に漸く科挙を突破して進士となり、府学の教授や書院院長といった教育関係の役職を授かる。以後彼は職務と平行して研究著作を進めたが、それは主として古典や先人のテキストの評注の校訂であった。自らの研究としては、『読杜心解』(杜甫の詩の研究と読解)、およびこの『史通通釈』がある。
 この『史通通釈』(乾隆十七・1752年)は、引退して故郷に戻った彼が、唐の劉知幾の『史通』に、著者による懇切な「釈」(語釈と句釈)と「按」(関係する史実や史料の紹介)を添えて著したものである。内容と体裁について、日本で言えば古文の教科書のごときものを考えればほぼ当たるであろう。長く勤めた役職の影響からか、初心者・中級者むけの教科書・参考書のような水準の出来となっている(たとえば版本の異同の確認やテキストの校勘にわりあい無頓着で、自分一個の判断で勝手に字句を改めた箇所があったりして、同時期や後世の研究者から批判されている)。
 この書においては「釈」も「按」も、テキストの語句の解釈と解読に役立つ情報知識の提供という位置づけが明快である。原書をダシに、おのれの学説を開陳するという中国の注釈家にしばしば見られる衒気がほとんどない。これはこの人物の学者としての創造性の限界を示すものかもしれないが、しかしかえってそのことによって、この著作が唐代の文言文と清代の文言文が語彙・表現、ときに文法において異なっていることのよい実証例となる結果になっている。

(上海書店 1988年3月)