くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「黒い本」緑川聖司

2016-01-21 04:38:46 | YA・児童書
 竹岡美穂さんのかわいい挿絵で、著者は「晴れた日は図書館に行こう」の緑川聖司さん。それなのに、こんなに食指が動かないのは何故でしょう。古本屋で四冊買いました。娘に読むかと聞いたら無言。
 で、とりあえずわたしが読んだのですが。
 ショートストーリーが13本入っています。それをつなぐストーリーもあります。途中でふと引き出しに入れたら、すっかり忘れてしまい、つい先日再会しました。残りのページを読んで、うーん、前の方の話をすっかり忘れている……。
 インパクトという点では、ちょっとわたしには物足りないです。児童書だから?
 でも、そのほかの緑川さんの作品はおもしろく読んできたので、こういうコンセプトが好みじゃないのかも。
 ヘッドギアで知能を高めた代償の話はおもしろかったと思います。

 こっちの方が怖かった。杉浦日向子「百日紅」(ちくま文庫)上下。自分で単行本と全集版をもっているのに、借りてきました。結構「気配」が強くてあてられてしまい、途中で休止。
 「ヨイ豊」は、このあとの世代が描かれているのだなーと感じました。「熊」と呼ばれる豊国は、初代です。三代は、ここでは国貞。後に影響を与える国芳は、国直と同居している。こういうつながりが興味深い。
 で、北斎を中心とした人間模様よりも、時々入る江戸の怪異がぞっとするのです。「百物語」とは別種の怖さ。
 猟奇とか印象的なエピソードとかそういうものでもない。空気感に漂う気配に、圧倒されます。

「12歳からの読書案内」金原瑞人 監修

2016-01-20 05:28:10 | 書評・ブックガイド
 金原瑞人監修「12歳からの読書案内」(すばる舎)は、もうずっと前に買って学級文庫として活用してきたのですが、図書室でここに紹介されている作品を展示してはどうかと読んでみました。
 すると。
 わたしは結構韻文が好きなのかも、と思うくらい、他のコーナーの記憶がすっとんだんですね。

 特に! 佐藤りえ歌集「フラジャイル」! ほしい! ネットをあちこち検索して、彼女の歌を読んでみました。
 本書で紹介している歌は、こういう作品。

  かなかなの声の止みたる一瞬に愛を語りて二度とは告げず
  バームクーヘンが丸くない国へ行く きっとけんかの少ない国へ
  帰らないかもしれない家で煮詰まって煮詰まっていくクリームシチュー

 仙台のご出身だそうですが、この歌集以降は出版されていないのでしょうか。この歌集自体、近隣の図書館には在庫がない。
 千葉聡「そこにある光と傷と忘れもの」も読みたい。千葉さんは「今日の放課後短歌部へ!」に共感したので他の著作も気になっているのですが見つかりません。

  「靴磨き を「くつまろ」と読んだから君のあだ名は靴麿 自称「まろ」なり
  真っ白な日誌を出して「今日オレは透明人間なんだ」と笑う

 この二つの歌集、どちらも風媒社からの刊行です。手に入るのか?
 で、衝撃的なことに、ここにセレクトされた百冊のうち、図書室には三冊も在庫がありませんでした。
 フェアは無理かな……。
 「常識の世界地図」(文春新書)を読んでみたいけど、もう十五年は経っているから、やっぱり無理かな……。
 とりあえず、「王様のブランチ」で特集コーナーを作ってみました。

「響」

2016-01-19 04:59:07 | コミック
「響」二巻まで読みました。作家ものだというので興味があったんですが、三巻はもういいや。
 ヒロインの魅力が、わたしにはわからないのです。
 周囲の人々は彼女の実力を認め、新人作家は別の道を選び、先輩のリカは自分が父の七光りであることを突きつけられます。編集者は響が書いた手書きの応募原稿を打ち直し。(データ入稿のみの規定なので、このままでは落とされるため)
 しかし、響自身は周囲と軋轢ばかり起こす問題児。
 まんがの世界だと実際の小説が描かれるわけでもないので、わたしとしては共感できない。
 とりあえず分かるのは、響は純文学を愛好しており、編集者から文学の世界に新しい感覚を巻き起こすと期待されていること、そして、純文学の第一人者はリカの父祖父江であるということくらいです。
 確かに純文学は、売れないよねぇ。
 というより、わたしもいわゆる純文学って読んでいない気がします。(村上春樹とか読まないですね)
 響は、リカが揃えた本の配置が納得できないと、本棚ごと倒すような女子高生です。祖父江家の本棚も倒そうとします。
 本の好みはそれぞれなのだから、リカがその本を評価するくらいいいじゃない。だいたいおもしろい本かそうでないかは、価値観の違いでしょう。そういう頑なさは、文学的なんでしょうか。わたしは村上春樹読みませんけど、ファンの人に文句言ったりしませんよ。
 えーと、天袋にしまい込んでしまったので、著者名はわかりません。
 

「魔女メディア」ほか

2016-01-18 05:47:36 | コミック
「白い影法師」と「魔女メディア」はありました! 
「白い」は、中学生のときすごく怖くて。特に机の下から小夜子の幽霊が覗くあの場面。結構トラウマになりそうな表現ですよね?
 実はこの本、毎回貸し借りしていた幼なじみが買ったのですが、あまりにも怖くて家に置きたくないと、わたしが預かったのでした。(今思い出した)
 同時収録の「エリカ」シリーズがコミカルでおもしろかった。特に博多人形にまつわる話。続編があったら読みたいものです。美内先生、中途半端なシリーズ多すぎる……。「ガラスの仮面」や「アマテラス」のエンディングが読める日はくるのでしょうか。
 「メディア」は、塔に幽閉された婦人の子孫にあたる女の子が、幼いころから見続けた夢の場所にやってくる。そこから、昔魔女と呼ばれた女の情念が蘇って……。
 夢から覚めたあとの彼らの今後はどうなるのでしょうね。
 「黒百合の系図」を探したけど、見つかりませんでした……。
 中高生のとき、こういうホラーにどきどきしたものですが、あの頃とはもう視点が変わったことを感じます。
 なんか昔はもっと密度が濃かった。感受性の問題でしょうか。もっとずっと長い時間のように感じていたのですが、「白い影法師」は短編ですし、「金色の闇が見ている」だってそれほど長くはありません。
 でも、とてもずっしりと受け止められるストーリーでした。「冬のひまわり」とか赤色人が出てくる話とか持っていたはずなのに……。

 聖千秋「サークルゲーム」の二三巻しか見つからず、消化不良です。全部読んですっきりしたーい。いずみが幸せになるっていう確信はあるのですが。

「雪の音」ほか 美内すずえまんが

2016-01-17 10:25:52 | コミック
 ネットを見ていると、懐かしい少女まんがの話題がのぼることがあります。中でも恐怖ものは人気があって、こいわ美保子の「真夜中のシンデレラ」とか美内すずえの「白い影法師」とかがよく上がりますよね。
 わたしは美内さんのまんがが好きで、学生時代熱心に集めたのです。猛烈に読みたくなってきました。
 実家には午後から来たため、まんがを探しにいったときには夕方でよく見えない。(電気がつなかい離れにある)
 でも、数冊持ってきました。
 「13月の悲劇」(マーガレットコミックス)は、魔王ルシフェルを崇拝する学校に転校した少女が、その組織を壊滅させるまでが描かれます。
 有名俳優を父にもつ少女マリーは、その存在を秘されていたため、母が亡くなったあと、寄宿舎のある女学校に転校します。しかし、学園の園長、教師、生徒たちまでが無表情。唯一二年前に転入したというデボラだけが親しみを表せるのです。
 母の形見の十字架を園長たちに奪われ、踏みにじさせられて、マリーはこの学園に激しい嫌悪を抱きます。クリスマスも祝わない。礼拝のときにみる「主」は、カーテンに隠されていますが、そこから覗くのは鈎爪。
 12月らしい行事を祝わない学園のことを、13月と呼んだものなのですね。
 「金色の闇が見ている」は、街を襲う猫たちの恐怖。同時収録の「炎のマリア」が好きでした。生き別れた母はマリア様に似ていると言われたことを信じるジェーンを引き取った「伯母」は、実の母親で……。
 「帰らざる氷河」もいいんですよ。歌劇の歌姫とサルビア国王との間に生まれたエリナは、正妃から命を狙われていることから、オデットと名乗ってジプシーとともに旅をします。
 敏腕マネージャーに見いだされた彼女は、全世界に名前を轟かせ、サルビアに凱旋帰国。
 鍵盤の端から端まで声が出るエリナを見て、昔北欧にいた歌姫のことを話題にあげる人がいます。そのあたりが涙ものなんですが、彼女の持ち歌は「ジプシープリンセス」とか「さすらいの星」とか、もう少し格調高くともいいんじゃないかと……。全体に響く「三本の赤いキャンドル」がとても素敵です。
 「孔雀色のカナリア」は、生き別れになった双子の妹に成り代わろうとした亜紀子の姿が哀れです。幼なじみのお兄さんがいい脇役だなーと思いました。
 中学生のとき、「なかよし」で連載を読んで非常に怖かったのが「妖鬼妃伝」。地下鉄沿線のデパートに買い物にいったつばさとターコ。気味の悪い人形展にバッグを忘れたというターコが、そこから姿を消してしまい……。
 「雪の音」は、時々読み返したくなる一作なんです。美人のキルメニイと声が似ているポリーは、彼女の身代わりに別荘に行くように頼まれます。別荘は婚約者のバートのもの。キルメニイには他の用事があるのだそうです。
 バートは事故のために失明しており、ポリーの顔を触らない限り気づかされることはないとキルメニイは考えたのです。
 スケート場での出来事を通して、ポリーとバートは距離を縮めます。失明以来心を閉ざしてきたバートは、彼女の献身的な優しさに触れて、活気を取り戻していくのです。
「雪は……静かだ……だまったまま降ってくる……ぼくにはわからない」「ね、バート。雪にも音があればいいのにね。そうすればあなたにも雪のおとずれがわかるのに」
 やがてバートは、彼女にプロポーズをし直すのです。
 自分に自信をもてないポリーが、バートによって愛情を信じられるようになるのも、素敵です。
 同時収録の「振り向いた風」「雪の日」も好き。
 他の作品も読み返したくなりました。一夜明けたのでまた探しに行ってきます。

「宮城県謎解き散歩」吉岡一男 編・著

2016-01-16 06:05:05 | 歴史・地理・伝記
 社会の先生からお借りした「宮城県謎解き散歩」(新人物文庫)。
 この前古本屋でも、結構たくさん売っているのを見かけました。県民ご当地ものが流行しているから、その関連の出版かもしれません。
 そういうシリーズって、どうしても仙台中心になりがちですが、県北や県南のことも紹介されていました。
 わたしは宮城にしか住んだことがないので、非常に身近に感じます。そのなかで新たに知ったことをピックアップしてみますね。
 1 一遍上人らが提唱した踊り念仏は、登米市南方まで伝播した。
  そういえば、南方の路上に踊り念仏に関わる看板がありましたよ。普段目に留めていなかったことに、気づかされる感じがしました。歴史的に関連のあるところとは思わず、たかをくくっていたのですね。
 2 子規が瑞巌寺を訪れた句「政宗の眼もあらん土用干し」
  虫干しをすれば、政宗の失った目が宝物殿から出てくるのではないかとのジョークをあげ、実のところは遺言によって両目がある政宗像のことを詠んでいるとのお話。「おくのほそ道」で芭蕉が訪れた松島を訪ねて、子規が写生の精神を見つめ直すきっかけになったよう。子規は宮城に来ていたのですねぇ。
 3 県内で最初に直木賞をとった人物
  大池唯雄という方だそうです。本名は「小池」。文学館の館長小池光さんのお父さんだそうです。
 4 栗駒山には「お室」と呼ばれる洞窟がある
  お駒さまの山宮だそうです。ということは、清掃や供物のために登山する必要があるのですね。大変だなあ。
 5 東北大に漱石文庫があるのは
  あるのは知っていました。香日ゆらさんが、グッズも充実していると言ってたし。でも、確かに東北大とは縁もゆかりもないですよねぇ。小宮たちが在職していたために保存が決まったって……やっぱり、漱石先生は弟子に好かれていますよね。行ってみたい。
 6 蝮よけに「山吹善平さんのお通りだ」と唱える風習があった
  「栗駒町史」に書いてあるそうです。花淵氏が蝮よけの祈祷をしていたので、「花淵」が「山吹」に転化したのではないかとのことでした。町史読んでみます。
 ほかにも魯迅の話題や、ケサランパサランなど耳にしたことのある話題がたくさんありました。
 県出身の有名人は、栗原の人が多く紹介されていましたよ。狩野英孝とか宮藤官九郎とか高橋ジョージとか。
 本はお返ししたので、ちょっと表現の間違いがあるかもしれません。
 一緒に借りた「先生はストリートミュージシャン」(大野靖之)は、わたしには今ひとつでした。道徳の教科書で紹介されていたのはおもしろそうだったのですが。
 音楽を聞けば違うのかな?

「アフリカにょろり旅」青山潤

2016-01-15 21:11:35 | 歴史・地理・伝記
 図書館の特集棚に「爆笑エッセイ」としてこの本があったのです。
 青山潤「アフリカにょろり旅」(講談社文庫)。
 ふと後ろの紹介文を読むと「世界で初めてニホンウナギの産卵場所を特定した東京大学海洋研究所の『ウナギグループ』」と書いてある。
 これはっ、読書感想文の課題図書だった「うなぎ」に関わる本なのでは? そう思ってぺらぺらめくると、塚本勝巳教授の名前があるではないですか。
 こういう読書のつながりって大切にしたいと思うのです。
 息子も感想文は「うなぎ」で書きました。
 興味津々で読み始めたら、ぐいぐい引き込まれて。
 一体いつになったらアフリカのうなぎに巡り会えるのか。青山さんと、同行する俊さんとのやりとりに、大変そうだなーと思いながらつい笑ってしまうというか。
 塚本先生が若者二人に負けないくらいパワフルで驚きましたが、行程途中で日本に帰国してしまいます。でも、うなぎを見つけないうちは彼らは帰れない。
 ロワーシレのバングラでは、ニャマチョマに辟易する俊さん。店の人は「ヤギ」というけれど、彼には人肉としか思えない(!)のです。
 食事を拒否して、どんどん衰弱していく。
 地元のおじさんに誘われて国境を越えることになってしまった青山さん。しかも徒歩! 苦労して歩いたのに、水が不足して大変だったのに、徒労に終わるのでした……。
 あれこれ苦労した結果、なんとかうなぎを手に入れることができます。
 
 ところが。
 実は、研究のためには三十匹分ものデータを集めなければならないのです。アフリカ各地をさまよったあとに、運びこまれるうなぎをじっと待つ生活。辟易した二人……。
 帰国した彼らを迎える塚本先生。
「おぉ、帰ってきたのか! お帰りお帰り。お疲れさんでした。二人とも元気か? いやぁよくやったよ。さすがだよ。君たちならやると思ってたけどな。よしよし。また後で話聞かせてね。あぁ、ところで早速だけだと、こうなると青ちゃんの発表は今日の三時からだから、頼むね!」
 素敵すぎます。

 気になって「うなぎ」を読み直してみました。
 青山さん、調査隊の「番頭」さんなんですねぇ! 「にょろり旅」の紹介もされていましたよ。
 他の著作も読みたいと思って、図書館蔵書検索したら、なんと宮城県内の図書館、どこにも青山さんの本が登録されていない!? 愕然としました。(でも、これを借りた県外の図書館には全作あるのでほっとしました)
 昨日親知らずを抜いたので、居心地の悪い感じのする一日でした。
 明日は久しぶりに実家に行きますー。

「小説の書きかた」須藤靖貴

2016-01-12 20:21:04 | YA・児童書
 食物調理科の話がおもしろかったので、須藤靖貴さんの「小説の書きかた」(講談社)を読んでみました。
 横須賀文翔高校文芸部(通称ブンブン)の四人の部員(文造、カエデ、ハルノ、キミコ)が、文化祭に向けてリレー小説を書く物語です。
 ちょっとした行き違いから、サッカー部をやめてしまったキミコ。姉のように慕っていた従姉のジュンちゃんがダイエットで亡くなったこともしこりになっています。
 他の三人は文学に興味をもっているけれど、キミコはそれまでの下地がない。自分だけなかなか筆が進まないことに焦りを感じます。
 そこで、編集者役の大造にヘルプを頼むことに。
 ただし、大造のいうことは難しすぎて理解できないので、女子高生が親しめるように言葉を変えてもらいます。「アイポ」(アイポイント・視点ですね)、「コンカツ」(困難は分割できる)なんて感じです。
 夏合宿に向かった四人は、カエデの家の別荘で藤堂(通称「トドやん」)という作家と出会います。新人賞をとってから自作を発表していない彼ですが……。
 ここまで読めば、藤堂がラストにどんな作品を描くか予想がつきますよねー。
 主語の問題とか「衝突の技法」(「シルコジオ」とも)とか、小説を書こうと思った高校生には適切な助言です。これを知ったら、自分でも書いてみたいと思うのでは。
 わたしも、高校時代は文芸部でした。リレー小説を書いたこともあります。タイトルは「あげは蝶の午後」。わたしが書くと、格好いいはずの相手役がいまいちな感じになってしまう……。
 文化祭でどういう展示をするかという話題も、よくわかります! 結構大変なんですよ、アイデアを出すのは。
 名作のターニングポイントを変えることで、運命はどう変化するのか。キミコは、「坊っちゃん」がマドンナをデートに誘うことを考えます。いやー、「坊っちゃん」はドラマ化するとやたらと爽やかになるじゃないかとわたしは思うんですが。
 で、結局、街鉄の技師の仕事も周囲の俗物に腹を立ててやめてしまうという展開にしたそうです。
 ところで「坊っちゃん」、今回もお正月ドラマで放映されましたが、爽やかさを売りにしない二宮くん、最後までひねくれていてよかった(笑)。マドンナはああいう人ではないですけどね。

「まったなし」畠中恵

2016-01-10 08:48:00 | 時代小説
 やっと図書館で借りられました。畠中恵「まったなし」(文藝春秋)。
 いよいよ清十郎のお相手が決まりそうという話を聞いていたため、どこでそういう展開になるのかどきどきしていました。
 かつて縁のあった娘と再び、と思ったら新たな縁談が持ち上がっている。まだ年が幼い。好意を持ちかけると断ってほしいといわれる。以前仲がよかった娘はだいたい所帯を持っている。まとまりかけたら、流行病をきっかけに反対される。
 麻之助の父がなんとか縁談をまとめようとやっきになりますが、当の清十郎はちょっと困惑気味。
 でもね、お安さんが素敵ですよ。
 町名主の娘で鋭い見通しを次々伝えてくれます。その賢さに、麻之助たちも舌を巻くし、事件解決の糸口にもなります。こういう人はいいなあ。
 また、丸三を旦那にもつお虎さんの活躍も印象的です。
 お安さんを着飾らせるシーンもいいですが、預かり子のためにさらわれる場面では緊迫しているのに、男の髷をほどいてしまう!
 お由布さんは再婚してしまうのでしょうか? 気になります。

「復讐屋成海慶介の事件簿」原田ひ香

2016-01-08 05:43:00 | 文芸・エンターテイメント
 すごくおもしろかった! 原田さん、こういう軽妙な連作うまいと思います。主人公美菜代の変化が、とても納得できました。でも、やっぱりいちばん変わったのは成海ですよね。
 原田ひ香「復讐屋成海慶介の事件簿」(双葉社)。
 社長秘書だった神戸美菜代は、付き合っていたつもりの男が社内の別の女と結婚すると聞いて退職します。社長に取り入るきっかけを作ったのは自分なのに。
 悔しくて、噂に聞いた「復讐屋」のもとを訪れるのですが、事務所の主、成海慶介との出会いは最悪で……。
 彼はセレブの依頼しか引き受けないと言い、そのことがきっかけで美菜代は押しかけ秘書として事務所に通うことになります。
 ところが、彼の仕事ぶりには唖然。「復讐するは我にあり」とは神の言葉なのだから、天誅が下るのを待てばいいのだ、と言って遊びまわるのです。
 彼の言葉は真実?
 いつの間にかターゲットを尾行させられたり、食事として準備したパン(成海は「ゲスなパン」と言っています)を依頼人にあげることになったりいいように使われている気がしてくる美菜代。
 わたしが心惹かれたのは、盗作事件のことですね。 シナリオライター志望のめぐみが、友人に見せた作品。男女を逆転して応募されて、大賞を取ります。スクールで訴えても聞いてもらえない。
 めぐみの悔しさに共感した美菜代は、渋る成海を抑えて引き受けます。
 ここで登場する脚本家の栗原さんが格好いいです。
 盗作をするのは、才能のない人。めぐみは、自分の心を信じて新しい作品に挑むことを誓います。
す 事務所に慣れて、「ゲスなパン」以外の食事も食べられるようになる美菜代ですが、街でばったりと仕事をやめるきっかけを作った男に会ってしまいます。
 復讐って、何だろう。
 自分のやり場のない気持ちは、どうすればいいのでしょう。
 相手の家庭に経済的な変化が起きる。認知症のためか、かつての思い出を間違って覚えている。自分を陥れた女と同じことはできないと気づく。
 彼らが復讐心から脱却するきっかけを作るのが、成海は抜群にうまいのだと思います。復讐を果たすのではなく、そのしがらみをなくす。相続は手放した方が幸せになるという考えもそうですね。新しいものの見方ができるようになりますよ。