くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「うたう百物語」佐藤弓生

2016-01-23 05:17:14 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「YAブックガイド150」で、かなり興味を引かれたのがこれ。佐藤弓生「うたう百物語」(メディアファクトリー)。
 仙台で在庫検索をかけたら、ミステリ関連のコーナーにあるとのことだったので、三往復くらいして丹念に探したのですが、そこにはありませんでした……。
 数日後、図書館にあることがわかったのですが、なぜか閉架図書。そんなに古い本でもないのに。
 
 百人の短歌から派生した掌編が百篇。見開きに五百字くらいのショートストーリー、左端に短歌というフォーマットで続くのですが。
 わたし、開眼しました。短歌を読んでから本文を読むのがわかりやすい。創作の過程がわかるような感じがします。
 中には感性が強すぎて理解できないものもありますが、それはそれで受け取るのがいいと思うのですよ。
 印象的だったのは、まず【八】。奥さんが亡くした悲しみから少し落ち着きを取り戻した男性が、箪笥からサイズの全く違う上着を見つける。こうやって書くとあっさりまとまってしまいますが……やはり、「語り」の魅力だと思います。
 【十六】雪の日、白いコートを買ったばかりの娘が姿を消してしまう。
 【三十六】燃えてしまった家に戻った夫を見つめる女性。この作品の文章の美しさ! やっぱり韻文を書く方の言葉の選び方は鋭いと思いました。
 【四十五】山中で道に迷った夫婦。時間が経過しているのに、太陽の位置が変わらない。
 【四十九】「あかねさすむらさきのゆき……」と呟く母、意地悪をする兄。
 【五十二】信号脇の花束。赤信号を渡りそうになって、姉に止められる。
 【七十一】怪獣好きな彼は、恋人を踏み潰されるという悲劇にみまわれます。だから、恋人がいる状態は想像のままがいい。
 【七十二】タクシードライバーが乗せた客。いつの間にか二人に。
 【八十五】花の降りしきる老女の映像を撮ったのは……
 なんか自分の文章力にがっかりしてきますが、ストーリーとしては完結しているんですよ。こういう感じで連載されていたら、毎回読むのが楽しみだろうと思いました。
 短歌も少し書いておきます。まず、佐藤りえさん。ますます歌集が気になる。「かくはやく流れる川を眺めおり 向こう岸から手を振らないで」
 千葉聡さん「知は叫ぶ 百科事典の背表紙に『あーあん』『いーうぅ』『うぇーえん』とある」(んは小さい字)
 「死ぬまへに孔雀を食はむと言ひ出でし大雪の夜の父を怖るる」は小池光さんの有名な歌ですが……
 先日、「宮城謎解き散歩」で知った大沼さんが孔雀を食べると言い出した本人ですか?!
 まあ、作品イコール作者の体験とは言い難いと思いますが。
 有名歌人の句はもちろんですか、鴎外とか中勘助とか、文人の句もあります。茂吉は「あまのはら冷ゆらむときにおのづから柘榴は割れてそのくれなゐよ」。