くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ヨイ豊」梶よう子

2016-01-04 05:44:22 | 時代小説
 梶さんの直木賞候補作品「ヨイ豊」(講談社)読みましたー。
 次に予約が入っているとのことで、そのまま返そうかとも思いましたが、どのみち図書館は年末年始休業なので……読み始めたら、一気に集中できました。
 「ヨイ豊」とは何か。
 それは、終盤でわかります。「ヨイヨイ豊国」と呼ばれるほど、右手が動かないのに何とか浮世絵を残そうとする執念。
 世の中が江戸から東京へと急速に移るなかで、浮世絵は新聞や写真にその位置をとって変わられる。それでも、浮世絵の文化を失わせたくない。そんな思いをもつ四代豊国。
 前半は、どうして四代を襲名したのかということが中心に描かれます。二代国貞である清太郎は、三代豊国の娘婿。三代が亡くなり、誰がその名前を継ぐかが噂されます。順当にいけば清太郎なのでしょうが、どうしても屈託が残ります。
 というのも、傑出した才能をもつ八十八(やそはち)が、実力的に相応しいのではないかと考えているからです。
 また、豊国の二代は金で名前を買ったのだといわれており、三代は自分こそが二代だと言って襲名した過去。そのことも影を落とします。
 名のある絵師は時とともに亡くなります。本文の前に、広重、国芳、豊国の亡くなった年が羅列されていますが、彼らの時期で浮世絵の全盛は終わりを告げたのではないかと感じました。
 この頃には、既に歌川派以外の流派は廃れてしまっています。豊国の工房では国芳の弟子たちと張り合っていますが、全体的に先細りの感は否めません。

 北斎が好きで、浮世絵について調べたこともあったのですが、明治になると芳年とか一部の絵師を除くと活躍の場が減ってしまうことは知っていました。(高橋克彦さんの新聞浮世絵の本も持っていたのですが……)
 浮世絵と歌舞伎の対比や、武家の出である雅之助の行動など、非常にドラマチックな作品でした。