くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「天皇の料理番」杉森久英

2015-06-02 20:50:28 | 文芸・エンターテイメント
 小学生の頃、わたしが憧れていた女性は檀ふみさんです!
 「連想ゲーム」見てました。それから、「天皇の料理番」が好きだったんです。テーマソングも覚えています。堺正章さんの「帰ってきたよ。五年ぶりさ、この街も」という歌詞。フランス語の歌は何て言ってるのかわかりませんでしたけどね。
 ラストで、出世して世の中の美食も思うままの主人公が、自分の運命を変えたカツレツを食べて、その素朴さなおいしさに涙を流す場面や、天皇陛下の食事の下準備に使った凧糸を取り忘れていたエピソード、覚えています。もう三十年以上経っているのにね。
 だから、この本も何度も読もうとはしました。
 ただ、若い娘時代には読みにくかった。冒頭ぱらぱらめくって、今の自分には無理だなと諦めたものです。
 だって、篤蔵、強情っぱりで。出家すると大騒ぎしたうえ、いよいよ剃髪となったらすごく嫌がるし。
 今回、佐藤健さん主演のドラマ化で随分売れているようですが、読んだ人はこの小説の高浜篤蔵という男とのギャップに嫌にならないの?(わたしはこのドラマ見ていないのでマチャアキとしか比較できないんですが、なんぼなんでも、佐藤健さんをこんなべらんめぇな人格にはしないでしょう。かなりの演出があると考えるのですが)
 集英社文庫上下には、ドラマの写真とこんなコピーがついています。「かつて料理で、国をも動かした男がいた」「愛と夢こそ、全ての原動力だ」。
 ドラマはそういう視点で作られていると見ていいですよね?
 でも、篤蔵はプリンス・オブ・ウェールズや各国来賓の晩餐会に尽力しますけど、別に国を動かしてはいないと思いますよ? どの場面のことなんでしょう。しかも、宮様の成人のお祝いに招かれなかったことを相当悔しがっていますが。
 最初の妻を郷里に残して家出する。華族会館をやめたあと勤めた店の奥さんと深い仲になる。フランスではフランソワーズという女と親しみ、宮内省に入ってからは下宿先の娘さんと恋仲に。あああ、檀ふみの役柄が崩れていく……。
 大体、カツレツ食べたのも軍隊のコックさんの料理で、わけありと思えた彼は戦死してしまうし。わたしの記憶は間違ってる?? と思いつつ、最後のページを見たら亡くなった場面でした。
 あっ、でも、ドラマとは別物と考えればおもしろいと思いますよ。戦時中は宮中でも食糧の確保に苦しんだんだなー、とか。晩餐会のメニューも載っていますし。鵜飼を外国の方々に楽しんでもらおうと企画したけどまだ稚鮎しかいなくて鯉やら鮒やらで代用したり。
 念願の一冊(文庫なので二冊ですが)を読めて、なんだか肩の荷が降りました。