くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「the SIX」井上夢人

2015-06-26 20:40:50 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 帯には「僕たち6人には、他の人にない能力がある。だけど、この世界のどこにも居場所はない」とあります。
 いや、でも、そうですか? これ、そんな話ではないと思う。「魔法使いの弟子」だったらそういわれても納得できるけど、これはちょっと違います。
 明日起こる事件を絵に描く少女、頭の中に誰かの心の声が流れ込んでくる中学生、怒りで空気を刃物のように操ってしまう男の子、いるだけで虫を集めてしまう子ども、静電気をまとう高校生、そして、死者さえもよみがえらせる癒やしの娘。
 この六人は、最終的に大学で超心理学を研究する講師飛島と知り合い、「仲間」を得た喜びを感じますし、物語の中では親戚のお兄さんや近くに住む少年のように理解してくれる人も現れるのです。
 特に印象的だったのは「魔王の手」です。
 ライターの森脇は、あるガソリンスタンドの爆発事故を取材します。
 炎上したタンクローリーの運転手と、自動販売機でジュースを買った高校生が、救急搬送されたのですが、二人の火傷には不審な点が。明らかに火元に近い運転手よりも、高校生の方が重体だというのです。
 スタンドの近くに住む同級生が「カミナリを使える」とを聞かされ、アパートを訪ねますが……。
 「魔王」と呼ばれる彼は、静電気除去フットストラップでアースしないと近くにいる人がみんな体調不良になってしまうほど。家電品もすぐ壊れるし、友人は皆無。姉と二人暮らし。旅行も行けません。
 被害者の高校生から見れば「悪」の立場にいる彼が、どんどん悲劇的な人物に変わっていくその転換が見事です。
 また、「虫あそび」には復讐を試みる小学生が登場しますが、それが達成されたときに言い知れぬ自己嫌悪に駆られて乱暴者を救い出そうとする姿が印象的でした。
 飛島が連載するコラム「招かれざるゴーストハンター」を、わたしも読んでみたいなあ。「魔王」少年は毎回立ち読みしているそうですよ!