くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「失くした記憶の物語」ガブリエル・ゼヴィン

2010-03-25 02:36:09 | 外国文学
ナオミ・ポーター。彼女が目覚めたとき、四年間の記憶が消えていることに気づきます。
自分の家はまるで知らない場所に引越しており、両親は離婚している。見知らぬボーイフレンド・エース、親友だという同級生・ウィル。妹も生まれているらしい。
登校しても知らないことばかり。優しい人もいれば意地の悪い人もいる。第一発見者のジェームズが気になってならないナオミは、やがて彼と恋に落ちます。でも、彼にはよくない噂がついてまわるのでした。
ガブリエル・ゼヴィン「失くした記憶の物語」(理論社)、訳は堀川志野舞です。
エース、ジェームズ、ウィルの間で揺れ動くナオミですが、章題のように彼らは「過去」「現在」「未来」の相手でもあるようです。
記憶を失っている間にあったことを求めるうちに、どうも自分の価値観が変わっているのではないかということに気がつくのですが、そのことは記憶を取り戻したあとに見直すと結構不思議な感じがします。
ウィルとの関係がいちばんではありますが、なぜエースの友人たちと仲良くランチが食べられたのか、どうしてアリスとはすれ違いになってしまったのか、おそらく本人にもしっかりとは分かっていないことか、違和感となって浮き上がる。
自分の好きなもの。例えばテニスとかイヤーブックの仕事さえも、どうしてそんなに夢中になったのかわからないのです。だから、ジェームズに熱をあげたともいえるかもしれません。二人ともとても不安定なのです。
着地もよくて、おそらく洋楽の好きな人にはそれならではの楽しみもあります。
なぜナオミが「チーフ」とか「クッキー」と呼ばれるのかよくわかりませんでしたが(前者については説明があったので理屈としては納得です)、それも外国文学っぽいといえなくもない。
はじめは読みづらいなと思ったのですが、結構楽しく読みました。ママの新しい旦那さんが日系だったり、実はラストで明かされる事実があったり、それに、ナオミのブルーな気持ちにどんどん引っ張られてしまうのです。
記憶。まるまる四年、ということはないにしても、わたしたちは様々なことを忘れます。忘れたいことも忘れたくないことも。
船の上でパパが語る言葉に、なんとなく救われるような優しさを感じました。

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