くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「旧石器遺跡『捏造事件』」岡村道雄

2018-12-02 10:23:31 | 歴史・地理・伝記
 捏造発覚した上高森遺跡が近隣であることから、旧石器遺跡捏造事件のことは記憶に残っています。
 とはいえ、いまだにどの辺りなのか、場所もわからないのですが。

 「旧石器遺跡『捏造事件』」 (山川出版)は、当時発掘チームの統括役だった岡村道雄さんが、事件のことを振り返ったものです。
 岡村さんは、藤村の「共犯」「張本人」とまで言われて苦渋をなめた方であり、その発見から記した著作を回収、絶版とされました。
 彼にとってこの事件は、まさに寝耳に水の出来事であり、その後の後始末に奔走することになります。
 その一方で、片棒を担いだとばかりに検証チームから外されたり中傷されたり。
 全てが顕になってから振り返ると、様々な疑問や矛盾があったことに気づくのですが、そのときは発見に夢中になる余り見過ごしていた。まさか、あの朴訥な男が捏造しているとは考えてもみなかった。後悔の念が繰り返し出てきます。

 当時「ゴッドハンド」と呼ばれた藤村氏。彼が参加する発掘調査では事前に記者発表の準備がされていたそうです。
 なぜ、二十数年にわたり捏造を繰り返したのか。
 このために全国の旧石器遺跡は信頼を失い、常に捏造の疑念を抱えることになりました。
 中でも中学教師の遠藤さんが、自身が発掘した座散乱木遺跡の成果を悪用されて、失意のまま亡くなったというエピソードには辛いものがあります。

 岡村さんは藤村氏を探して事実を聞きたいと、現在彼が住む町へ赴きます。
 しかし、雑談には鮮明な記憶をみせるのに、話題が捏造に関わりものになると「忘れた」「わからない」となってしまう。
 右手の指を切り落としたという彼に、岡村さんは叱責や憎悪の気持ちは表せなかったといいます。

 ところで、本の中に「藤村告白メモ」が紹介されています。
 A4三枚にわたる前・中期旧石器問題調査研究特別委員会宛ての告白ですが、委員長判断によりかなりの部分が塗り潰されている。
 しかし、この文章、なんだか「共犯者の関与」を匂わせているんです。
 ただ、最後にある「自信を持って捏造が一切なかった遺跡」として答えた「岩出山町宮城平A-1」は他の捏造遺跡と出土の具合がほとんど変わらないので、おそらくここにも捏造があるだろうとのこと。
 
 平成も終盤を迎えます。この三十年、様々な事件がありました。旧石器遺跡捏造事件は、その後の研究にブレーキをかけた嫌いがあります。誰も知らない過去の時代の遺物(石器)を地中から掘り出して見せれば、「発見」に沸くのは仕方のないことかもしれません。
 岡村さんは非難の声を浴びながらも、周囲の人に支えられて職を全うされたそうです。


 ところで、わたし、以前にも関連書籍「捏造発覚」を読んでいるのです。そのときの出版元を「朝日新聞」だと書いていますが、今回「毎日新聞」だと判明しました。すみません😣💦⤵️ 
 ブログもおかげさまで十年。早いものですねー。