くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「青少年のための小説入門」久保寺健彦

2018-12-15 22:11:48 | 文芸・エンターテイメント
 久保寺さんの久しぶりの新刊! しかも、「青少年のための小説入門」(集英社)。様々な小説が取り上げられているようです。表紙にも「道化の華」「外套」「羅生門」「バブリング創世記」「機械」「星の王子さま」等々、まさしく本の山(原稿の山?)が築かれていますよ。

 中学二年の一真は、クラスの不良少年から目をつけられて、駄菓子屋「たぐち」で万引きさせられます。
 「たぐち」には、体の悪いおばあさんと、その孫の登が暮らしているのですが、彼は二十歳にして強面の不良。
 登にあっさりと捕まった一真は、彼に本の朗読を依頼されます。ディスレクシアで、文字を読むことができないから、と。登は、ストーリーテラーの才があり、本を出したいという夢を持っていました。
 図書館の司書さんから勧められた本を片端から読み、二人は小説を書き始めます。もちろん、登がストーリーづくりで、執筆は一真の担当です。登は換骨奪胎に長け、これまでに読んだ本をもとに作品を生み出していきます。
 紆余曲折のすえ二人はデビューを果たし、覆面作家「倉田健人」(クラーク・ケントのもじり)として活動をはじめます。
 一真のガールフレンドかすみはアイドルとしてデビュー。もぐらのクルテク、検索しました。た、確かにオバQににている……。
 もうひとつ検索したのが、「バルネラビリティ」。意味は「傷つきやすさ、弱み」だと書いているのですが、この小説が実在するのかどうか気になりました。(やっぱり久保寺さんの創作みたいです)
 二人を批判する文芸評論家とか、場当たり的な編集者とか、登の原作で売れた漫画家とか、二人のこれからが心配なキャラクターも登場します。この物語自体入れ子構造になっていて、再デビューを果たした一真が登の死を知る場面から始まるのです。
 だから、倉田健人が長くは続かなかったことや登の消息がそれまで全く分からなかったこと、彼のもとに残された朗読テープなどで、なんとなく不吉な予感がしてくる。
 読み終わってもう一度冒頭に戻ると、登からのハガキの意味がしみじみと伝わってきます。この小説で最も印象的な小説は「ライ麦畑でつかまえて」、ですね。わたしは読んでいないのですが……。