くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「過ぎ去りし王国の城」宮部みゆき

2015-08-05 05:19:52 | ファンタジー
 いやいや、この中学ありえないわー。推薦で進路が決まった生徒は早退しても欠席しても咎められないし、午後の授業は自習で先生がいなくなっちゃう。
 わたしの勤めていた学校では、推薦組は早く決まっている分、卒業式にむけての係を引き受けるところが多かったんですが。
 とはいえ、こういう設定にしないと、主人公の真と珠美が行動できないからでしょうけど。(高校生なら自主登校期間になると思うけど、都会の学校はこんなにフリーダムなんですか?)
 宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」(角川書店)。まず表紙カバーの圧倒的なイラストがすごい。これは、黒板に描かれているの? この影響で、わたしは二人が入り込むイラストも、黒板なんだと思っていました……。

 親に頼まれて銀行に行った真は、掲示板の隅に貼られたデッサンに目を留めます。ヨーロッパの古城と思われるその作品は、客に踏まれた跡がついてしまい、真はつい持ち帰ってしまうのですが、素人が補修できるはずもなく。
 しかし、その絵からは樹木の匂いやざわめきが伝わってきて、どうにかすれば自分がそこに入ることができることがわかる。そこで、絵の得意な同級生の城田珠美に自分の分身を書き込んでもらえないかと考えるのですが……。

 この珠美ちゃん、学校の中に居場所がないんですよね。
 隣のクラスなんだけど、「ハブられて」いるのです。だから、真と話している様子も人から見られないように気をつかう。
 真は物語の主人公にしては非常に凡庸な人物で、友達も多くはない。テニス部では「壁」とまで呼ばれています。(打ち合っても壁打ちしているようだから、だって)
 だから、少年まんがのような活劇をしたり、ルールを破ったりもしません。
 わたしはこの話、真と珠美というコミュニケーションがあまり得意ではない二人が、友情を知る話だと思いました。古城に捕らわれている、かつて行方不明になった女の子とか、マンガ家のアシスタントをしているパクさんとか、珠美に執拗に意地悪をする同級生とか、様々な要素はありますが、真は珠美をきちんと理解しようとしている。そして、珠美はそれを知っている。
 別れを告げた彼女ですが、自分を友達だと語る存在がいることはきっと支えになるはず。孤独の中で生きてきた彼女も、城に捕らわれている女の子になんとかすがれる場所を作ってあげたいと油性ペンを持って行ったのですから、ね