くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「病魔という悪の物語」金森修

2013-12-30 06:29:06 | 自然科学
 「チフスのメアリー」
 これが、この本の副題です。「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」(ちくまプリマー新書)。
 聞いたことはありませんか? チフスが流行した時期に、ある家政婦がキャリアとして病原菌を運んでしまった、と。本人には自覚がなく、自分がチフスを撒き散らしているとは思っていない。そんなメアリーの人生を、金森修さんが紹介しています。
 昨年、プリマー新書を重点的に図書室に入れたいと思って調べたときにも気になっていたのですが、なにしろ予算の都合もあって買うにはいたりませんでした。
 本人はいたって元気なのに、周囲は病に倒れる。当局によって逮捕されたメアリーは、ある島に隔離。恋人や弁護士の協力を得て裁判を起こしますが、期待したような結果にはなりませんでした。
 メアリーは優秀な料理人だったようですが、一時釈放されたあとは調理の仕事をしないように誓約書を書かされます。
 ただ、結局は偽名を名乗って同様の仕事を続けていたそうです。再び島に戻ることになったメアリーは、残る生涯をそこで過ごします。その時期には恋人も弁護士も亡くなっていたのだそうですが、彼女と同じような「キャリア」がほかにも存在することが知られつつあるのに、いわばスケープゴートのように隔絶された人生を送ることになるメアリー。
 友人もおり、島の病院に職を得るなど、よい面もあったようですが、なんとも釈然としないようなやりきれない感じがします。
 誰かに病をうつしてしまう。自分には過失がないと思っていても、やはりつらいことです。病の代名詞のように呼ばれることも。
 ところで、メアリーのサンプルを取りにくる衛生官はジョセフィン・ベーカーというんです。ちょっとびっくり。