くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「愛のサーカス」別役実

2013-10-15 17:20:53 | YA・児童書
 連休中に木下大サーカスを見に行ってきました。すごく混んでました。わたしも息子も娘も、サーカスは初めて。
 始まる前にピエロの方が投げた大きいボールに直撃されてくらくらきましたが、チュロス片手に楽しく見ました。
 わたしはこういう興行の、スポットが当たらない部分に興味があるのです。開始前に梯子を上っていくキャストとか、上空の舞台で演じられるときは下で次のセットを組み立てているとか。そういう段取りがおもしろい。そして、人の目がどこに向くように演出してあるのかも。
 見ているうちに脳裏に浮かぶのは、かつて国語教材だった「愛のサーカス」でした。
 わたしにとってこの作品は、エポックメイキングなもの、と言いましょうか。小説教材を考える上で大きな出会いがあった作品だと思っています。
 ある港町に、少年とゾウが流れ着きます。少年は口をきかず、ちょっと寂しそうな風情で淡々と過ごしている。町の人々は彼を心にかけ、面倒をみるのですが、ある日馬車で乗り付けた紳士が、少年はサーカス一座のスターであると語ります。
 少年は何をしていたのか。寝て起きてお散歩をして食べて……。ただその生活が、「愛のサーカス」なのだと話し、母親との再会をフィナーレに町を去っていくのです。
 こういう不条理な小説が、中一の教科書に載っていたんです。まだ若かったわたしは、この作品のおもしろさは重々納得できるものの、これを生徒にどう提示するのか、迷いました。一年めは、なんとなく課題解決学習をさせたものです。「愛のサーカスとはどのようなサーカスなのか」「少年は、はじめから承知でサーカスを行っているのか」というような疑問点を文脈に沿って考える。あと、場面絵も描いてもらいました。
 二年め。育休に入っていた先生が戻ってきて、あるメモを見せてくださいました。数学の先生なのに、代替の都合で一クラス国語を教えることになったのですね。で、旦那さんが自分の職場の国語の先生に授業メモを書いてもらったというんです。
 そのメモを読んで、体が震えました。課題解決という点では同じだったのですが、その先生は演繹的に作品構造を見ていく手法をとられていたのです。
 わたしもその後しっかり真似させていただき、「愛のサーカス」は手応えのある授業となったと思います。
 つらつら考えながら見ていましたが、サーカスの演目っていろいろあるのですね。ジャグリング、一輪車、長いリボン状の布を上ったりバランスをとったり。オートバイで球形のジムをぐるぐる廻るのがスリリングでした。だって! 上空はタイヤが浮いているんですよ?
 ラストの空中ブランコも見応えがありました。当たり前のように見てはいますが、ものすごい訓練のたまものですよね。
 さて、その後も授業メモのことはずっと頭にあったのですが、実は現在教科部会でお世話になっている先生のものでした。納得です。いい授業をされる方は、日頃から素晴らしいなぁ、と思わされております。